第8話 攻撃していいのは、反撃を覚悟しているやつだけだよね
尋問終了!
うん? どうした山賊くん、そんなに脂汗を流して。息も絶え絶えだね。
あ、別に私が拷問とかしたわけじゃないからね。潰された指の治療を先にさせてほしいという願いを却下しただけなので。手当をしたいなら知っていることを全部話せ、と。
指先は人体でも神経が集中している部分だから痛みも尋常じゃなかっただろうね。まあ、私にあれだけのことをしたんだから、それくらいの痛みは耐えてほしい。
さて、聞き出した情報を整理しよう。
まず、いきなり呆れたんだけど、彼らは全員、現役のハンターだってさ。おいおい、犯罪者を擁する組織なのか、ハンターズギルドは!
ハンターは登録の際に身分証明書となるプレートが発行される。魔法がかけられたプレートには登録者の依頼達成率や討伐した魔物のデータ、犯罪歴が記録されるのだと町にいたハンターから聞いたことがあるけれど、山賊が言うには、ランクアップの時ぐらいにしか犯罪歴は調べられないらしい。
ダメじゃん。
ハンターは一定期間、ギルドからの依頼を受けないと除名されてしまう。山賊たちは初心者がやるような採取系の依頼をこなして除名を回避しながら、ギルドの依頼から狙えそうな商人たちをピックアップしていたのだそうだ。悪知恵ばかり働かせてまあ。というか、これはギルドの欠陥だよね。機会があれば情報提供しておこう。
……あるかなあ、機会。
ちなみに山賊たちは、全員がこの周辺の村々の出身らしい。土地勘のある場所で山賊行為を働くのは理に
孤児院があった町は国の最北端にあり、昔は鉱山の町としてそれなりに賑やかだったのだけれど、鉱山が閉鎖されてからは衰退の一途を辿っている。土地も痩せてるし、これといった特産品もない。そんな土地に生まれた若者が、ハンターになって一発当ててやろうと一念発起、村を出ていくのは珍しくもない。そして村はさらに活力を失っていく。
で、町に出た若者が全員、ハンターとして成功できるかというと、そんなわけもなく。厳しい現実に打ちのめされ、かといって大成せずに故郷に帰るわけにもいかない。
俺はもっとできるはずなんだ。
本気をだしたら凄いんだぜ。
俺にふさわしい依頼はないのか。
などなど、現実から目を背けて酒場で
山賊は全員で七人いた。二人は死んで、一人はここにいる。残る四人は多分、無事に逃げていると思われる。というのも、山賊が死んでいた通路のあたりで騎士に追いつかれて戦闘になったのだけれど、騎士の目的はマンヴィルの捕縛。山賊にマンヴィルを守る理由はない。なのでマンヴィルを騎士の方へと突き飛ばし、捕縛のために騎士が足を止めた時に全力で逃げ出したそうだ。目の前の男は怪我をしていたので、手近な隠れ場所がある右手の通路へと進んだ、と。
残る四人の行き先は不明だけれど、しばらくは大人しくしているだろう、とは目の前の男の弁。ちなみに自分だったら、故郷の村に一旦戻って身を潜めると言った。他の四人も同じ行動をするかもしれないなあ。
さて、これからどうしようか。なんとなく天井を見上げる。
ところで、人は考える時、どうして上を向くんだろうね。
視線が外れた瞬間、男の手首が閃いた。投げナイフだ! 「くらえっ」とも「死ねっ」とも言わず、黙って投擲してくるだけ本気なのだと思う。
真っ直ぐに私の心臓目がけて飛来するナイフはしかし、空中でピタリと止まった。必勝を確信していた男の顔が驚愕に歪む。
男にはナイフが停止した理由はわからないだろう。ゆらめくランプの灯りでは見づらいけれど、目を凝らせば極細の糸のようなものがナイフに絡みついているのが見てとれるはず。
EXスキル【操髪】。
尋問しながら使えそうなスキルを調べていたんだけれど、このスキルは名前の通り髪を自由に操るスキルだ。マナを消費するけれど長さも強度も自由自在。
尋問中、男がこっそりとナイフを手繰り寄せていたのには気づいていた。なので、髪をナイフに絡みつかせておいたのだ。使いようによっては、なかなか強力なスキルかもしれない。
「攻撃してきたってことは────」
「ひっ!」
「反撃されても文句は言わないよね」
ナイフを反転させ、髪を弓のようにして弾く。トスッと軽い音をたてて、ナイフは男の首筋に突き刺さる。頸動脈が切り裂かれ、血液が溢れ出る。男は悲鳴をあげ、のたうち回り、やがて血だまりの中で動かなくなった。
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