第3話 ステータスって言ってみたいよね

「原因がわかりました」

「……やっとですか」

 見慣れた、だけど違う真っ白な部屋。手にした資料をめくる女神様は、さて何人目だったろうか。

 私は死んだ。死にまくった。転生し、記憶が戻った瞬間に狙ったように。

 ある時は魔法の練習中。記憶が戻ったせいで集中が途切れ、掌に出現した火球が爆発した。ちゅどん。

 ある時は出産直後。魔物が襲撃してきた。モグモグ。

 ある時は、また出産直後。地震が起きて産婆さんが私を落とした。グキッ。

 ある時は、記憶が戻ったら邪神への供物にされるところだった。おお、神よ、貢物を受け取りたまえ~~なんちゃらかんたら。グサッ。

 もう、何度転生して、何度死んだかは数えていない。ずっと原因は調査中だったのだけれど、ようやくそれが判明したみたいだ。

 何人目かの女神様は神妙な面持ちで口を開いた。

「幸せ量一定の法則。あれが続いていました」

「え、死んだのに?」

「死んだのに」

 幸せ量一定の法則はストーカーだった!

 死んだんだから追いかけてこないでほしい。さすがにウンザリする。

 そんな私を見て、女神様が無理に明るく言う。

「だ、大丈夫ですよ。計算すると、あと一回。あと一回、不運を乗り越えれば運命から解放されます。……多分」

 多分て……。

「まだ、あと一回も死ななきゃいけないんですか?」

「死ぬとは限りませんよ! それを回避できれば薔薇色の人生のスタートですよ、多分。頑張りましょう!」

 女神様、めっちゃ必死。まあ、その気持ちは、わかるけど。

 実は神様は何人かで転生者枠を共有しているらしい。ところが、私が転生&即死のコンボを決め続けたせいで、その転生者枠が残り一つになってしまったようなのだ。ここで悪循環を終わらせないと色々とマズイらしい。

 え、私に責任? あるわけないでしょう。文句は運命に言ってもらわないと。

「それでは転生させますね。危機を回避して、幸せな新生活が始まりますよう、お祈りしておりますね」

「お詫びは?」

「…………」

 綺麗にまとめるとか許しませんよ。

 チート、ゲットだぜ。


         ◆


「……ああ、思い出した」

 一瞬の記憶の混濁のあと、今までの記憶と、この肉体の記憶が不安定ながらも統合された。まだ細部は怪しいし頭痛もあるけれど、とりあえず現状を再確認するくらいはできる。

 私が転生した世界は、剣と魔法の、所謂ファンタジーな世界。魔物もいて、私が住んでいた町も時々、魔物の被害を受けていた。

 この肉体での名前はマイ。確か十一歳になった女の子、そして孤児だ。この世界では珍しくもない、ね。

 その孤児の私がなんでドレスなんか着ているのかといえば、ある貴族物好きが養子として引き取ってくれることになったからだ。このドレスも貴族様が用意してくれた物で、命令を受けたメイドさんが着せてくれたものだ。ついでに全身を磨かれて化粧までされたんだけど、できあがった私は孤児院の男性陣が頬を赤らめて挙動不審になるほど綺麗だった……らしい。鏡を見てないから実感ないんだけども。

 その貴族様。貴族としては珍しく、各地の孤児院に寄付して回っていると言っていた。以前、うちの孤児院に来た時に少しだけ話をしたけれど、その時に私を引き取ると決めたらしい。

 孤児院は大騒ぎになったよ。お世話になっていた孤児院は、基本的に成人する十六歳まではいてもいいことになっている。だけど年長者はたいてい、大人扱いされる十二歳を過ぎると、仕事を求めて孤児院を出ていく。何でも屋のハンターを目指す子、手堅い仕事を探す子、博打で後先考えず出ていく子。さまざまだ。

 だけど、今まで貴族に引き取られた子はいなかったのだ。大騒ぎにもなるよね。

 泣いて引き留める子。

 良かったね、と喜んでくれる子。

 お土産をねだる、意味がわかっていない子……。悲喜こもごもが繰り広げられた。

「なんでお前が……」

 仲の悪かった男子は、そう言って睨んできたけれど、私にもわからないんだから睨まれてもねえ。

 私、年齢の割に背は低いし、力も無い。魔法の才能もないし、他に秀でたところがあるわけでもない。他になにかあったかな……んー。

 ……いや、そうだ。この世界にはアレがあるんだ。異世界転生したら言ってみたいセリフのランキングがあれば上位に来るのは確実なアレが。

 ふふっ、まさかこの台詞を言う日が来るとは思わなかったな。

 よーし、言うぞ、言うぞ。深呼吸して……。

「ステータス」

 言葉にした瞬間、目の前に半透明のウィンドウが開いた。うはっ、すごい。まるでゲームだ。

 そう、この世界では自分のステータスを見ることができるのだ。生まれたあと、神職に祝福してもらうことによって神に新しい命の誕生が伝えられ、自分の能力を確認できるのだとか。お陰で自分の適性や才能がわかりやすく、適職へ進むことが簡単なのだと孤児院の院長さんが教えてくれた。

 さて、私の能力はどうなってたかな……。



【名前】マイ

【種族】人間

【年齢】十一歳

【職業】────


生命力:9/20

マナ :15/15


筋力:6

頑健:7

器用:9

敏捷:6

知力:41 up!

精神:36 up!

魔力:5

魅力:31

運 :1


【種族特性】

器用貧乏


【種族スキル】

なし


【スキル】

解体:Lv2

採取:Lv2

裁縫:Lv1

料理:Lv2


火魔法耐性:Lv2 new!

水魔法耐性:Lv2 new!

氷魔法耐性:Lv2 new!

風魔法耐性:Lv2 new!

雷魔法耐性:Lv2 new!

土魔法耐性:LV2 new!

闇魔法耐性:Lv2 new!

光魔法耐性:Lv2 new!

精神魔法耐性:Lv2 new!

毒耐性:Lv2 new!

呪い耐性:Lv2 new!


【称号】

転生者 new!


【EXスキル】

オートマッピング new!

解析 new!

加速・減速:Lv1 new!

クリエイトイメージ new!

自動翻訳 new!

索敵 new!

スキャン new!

前世の記憶 new!

全属性適性 new!

全抵抗力上昇 new!

操髪 new!

マイホーム new!


 ……わお、なんという能力。

 ん~、知力と精神が極端に高いのは前世の記憶を取り戻したからだよねえ。あと、魅力が高いのは化粧されたせいかな。

 というか、運が1!? そりゃまあ、まだ幸福量一定の法則の呪縛から解放されていないからなんだけれど、こうして数値で示されるとキツイなあ……。

 あとEXスキルが増えているけれど、これは多分、神様から転生&即死のお詫びとしてもらったスキルで、記憶を取り戻したから出現したんだと思う。となると、やはり孤児院にいたころは特に見るべきところがない子供だったはず。一体、何が貴族様の目に留まったのか……。

「まさか」

 痛む頭を抑えながら首を傾けた時、自分の胸が目に入った。ドレスの生地を凶悪に押し上げているそれは、平均的な十一歳のそれを大きく超えている。そうだった、孤児のくせして胸だけは成長してたんだ、この身体。

 まさか胸か!? ひょっとして、そういう使い道で私を引き取ろうとしたんじゃないでしょうねっ。……って、痛たぁっ!

 胸を隠すように身体を抱いたら右足が悲鳴をあげた。

 ……バカなことは後にして、まずは現状を把握しよう。

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