第2話 ビームには勝てなかったよ

「一体どういうことなんですか?」

「いや、こちらもどうなっているのかさっぱり……」

 見覚えのある真っ白な部屋。そこで転生先────一瞬しかいなかったけどさ────の神様が汗をぬぐいながら分厚い本をめくっている。どうやらあの本は、世界を管理するための道具らしい。

「まさか転移して速攻で死ぬとは思わなかったですが」

「その件については本当に申し訳なく……。今までこんなことは無かったのですよ。おかしいな、あそこで竜狩りが始まるなんてあり得ないのだが……」

 汗をふきふき、まだ若く見える神様は頭を下げる。威厳もなにもないですね。まあ、上から目線で話されても嫌だけど。

 さて、神様が色々と調べてくれたけど、もともと私はイレギュラーな存在なので、この世界で転生してやり直そうとしても空きが無いらしい。あと数百年は待たないと、私の魂をねじ込むことができないと言われた。まあ、レジの横入りとはワケが違うし。

「どうしたらいいんですか?」

「あなたさえよろしければ、別の世界に転生されるのがお薦めなのですが……」

「今度は転生なんですか?」

「申し訳ありません、この世界の住人ではないため肉体の保護ができませんでした」

 なんてこったい。

 でもさっき、この世界での転生に数百年待たされると言ってませんでしたっけ? 別世界には簡単に転生できるんですか?

「世界は……スープなのですよ」

「スープ?」

「ええ、放置しておくと旨みが沈み、上澄みと分かれてしまいますよね。なので適度にかき混ぜてやる必要があるのです。それが────」

「転生者、ですか」

 世界を適度に撹拌するため、転生者は必要。なので転生者用の枠が最初から用意されているらしい。その枠を使えば、待つことなく新しい人生が始められるというわけか。

「じゃあ、それでお願いします」

「承知しました。この度は本当に申し訳ありませんでした」

 ちなみにお詫びは?

 ええ、もちろんいただきましたよ。


         ◆


 ビーッ! ビーッ!

 え、なに。警報?

 気がついたら周囲が慌ただしかった。

「女子供を先に避難させろっ!」

「救命艇が足りないだと? どこのバカだ、勝手に使いやがって!」

 記憶が蘇ったら悲鳴と怒号が飛び交う修羅場にいるとか、どういう状況なの。しかも自分、ロクに身体も動かせない。……って、赤ん坊だこれ。

「この子だけでもお願いします!」

 そう叫んだのは私を抱いていた女性。だけど宇宙服のようなものを着ていて顔はわからない。

 彼女は私を小さな機械に寝かせる。彼女に寄り添うように、少し背が高い人物が並んで私を覗き込んできた。

「ごめんな、父さんと母さんは一緒に行けない」

「あなただけでも生き延びてね」

 二人が顔を離すと透明な蓋が下りてきた。どうやらこの機械は脱出用のカプセルなのだろう。何があったかは知らないけれど、両親は子である私だけ先に逃がそうとしてくれている。ああ、両親というのは、こうやって子を守ろうとしてくれるものなのか。

 胸が熱くなる。両親を覚えていない私が感じる、初めての温かさだった。

 やがてカプセルは加速し、金属の通路から漆黒の宇宙へと飛び出した。あちこちで輝いているのは星……ではなくて爆発だよっ!

 あ、何か光った。って、ビーム!?


 じゅっ……。

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