転生→即死ループ! 気がついたら吸血姫になってました

トマト屋

第1話 異世界転移はバックドロップで

「痛ったぁ……」

 全身がズキズキと痛む。特に右足が酷い。……うわっ、浅黒く変色して倍くらいに腫れてる。折れてるよね、これ。

 って、脚を隠しているのはヒラヒラのスカート。慌てて全身を確認すると、上質な生地で作られたであろうドレス姿。どうしてこんな物を着てる?

 いや、そもそも。……私は誰だっけ。

 名前は……マイ。うん、そうだ、マイだ。

 いや、舞人……だったはず。前世では……って、アイタタタッ!

 頭に激痛が走って、別の記憶が一気に流入してきた。



 私の名前は神宮寺舞人じんぐうじ まいと。神宮寺だ。決して旋風寺ではない。三十一歳のしがないサラリーマン……だった。

 振り返るのも虚しいけれど、私はつくづく運のない男だった。幼いころに両親を亡くし、親戚をたらい回しにされた挙げ句、養護施設に入れられた。……いや、保護されたというべきか。

 やること成すことうまくいかず、たまに成功しても、あとでとんでもないしっぺ返しがやってきた。なんとか高校は卒業できたものの、良い思い出などひとつもない。

 就職しても不運は続いた。同僚の失敗をなすりつけられたり、あらぬ疑いをかけられてクビにされたり。いくつもの職を転々として、ようやく腰を落ち着けられそうな会社もコロナで簡単に傾いた。

 その時付き合っていた彼女も、私が職を失ったと聞いた途端に掌を返した。他にも付き合っている男性がいたらしく、私のことは生きたATMとしか見ていなかったと言われた時には、さすがにキレた。

 繁華街で言い争いになったのだが、その時点で私に勝ち目はなかった。彼女はただ一言、叫べばよかったのだ。


「キャーッ、助けてぇっ!」


 この一言がもたらす結末を、皆は簡単に想像できると思う。

 駆けつけた警官が私の腰にしがみつき、彼女に言い寄ろうとする私を引き離すため、思いっきり後ろに引っ張った。

「あっ!」

「え?」

 カランカランと。空き缶が転がる音を聞くと同時に身体が浮いた。警官が空き缶を踏んづけ、後ろにひっくり返る形で私に……結果的にバックドロップを見舞ってしまったのだ。受け身もとれず、綺麗な放物線を描いてアスファルトに後頭部を叩きつけられ、骨の折れる嫌な音を最後に意識が途切れた。



 意識を取り戻した時、真っ白な部屋の中に自分はいた。目の前には白いローブをまとった男性がいて、私に向かって深々と頭を下げるところだった。

 ……誰? え、神様?

「申し訳ない。手違いであなたを死なせてしまった」

「手違いって、ちょっと……」

 それから色々と説明されたけれど、要約すると、私は非常に不運な星の下に生まれたんだそうだ。

 幸せ量一定の法則って知ってる? 幸せの総量は決まってて、誰かが幸せだと、同じだけ誰かが不幸になるっていう、アレ。どうやら私は星のせいで、他人の不幸を一身に背負う運命にあったらしい。

 だけど、あと少し。あと少しだけ生きていられたら、星の巡りが解消されて幸運が舞い込んでくるはずだった。

 神様は私を生き延びさせるために、ずっと助けてくれていたらしい。不幸続きでもなんとか生きてこられたのは、神様のお陰だ。だけど、とうとう対処が間に合わなかった。地球における私の死は確定してしまい、もはや生き返ることもできないという。

 他人の不幸を一身に背負っただけの人生とか……悲しすぎて涙がでてくる。

「そこで、なのですが……。別の世界で生きてみませんか」

 別の世界。つまり、所謂、異世界転生ってやつですか? ちょっとテンション上がりましたよ。ラノベとか読んでましたからね。

「どちらかといえば転移、ですね。身体は保護しましたので、あなたさえよければ」

「それは、まあ、不幸なまま死にたくないですしね。ただ、どういう世界かは知りませんが、普通のサラリーマンだった私がそのまま生きていける世界なんですか?」

「さすがにそのままでは難しいでしょうね。今回の件はこちらのミスですので、あちらの世界で生きるのに便利な能力をお詫びとして用意させましょう」

 さすが神様、話が早い。やはり異世界転生・転移ならチート能力ですよね。

 それから神様は、転移先の神となにやら打ち合わせを行った。待ってる間にお茶とケーキも出た。死んでるけど美味しかったよ。

「今回はこちらの不手際で、あなたの人生を台無しにしてしまいました。どうか、新天地では幸運に恵まれますよう祈っております」

 神様がそう言うと同時に意識が遠くなった。

 ふと気づくと、サバンナを思わせる大地に立っていた。周囲を確認する────間もなく、地響きが迫ってきた。

 振り向くと、それが目前に迫っていた。

「Tレックスーっ!?」

 ひょっとしたらドラゴンだったのかもしれない。だけど考えている暇なんてなかった。だって目の前にそいつの……足の裏があったのだから。


 ぷちっ。

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