いつだって減るものは減る

───ちくしょう、不味い。

 素直な言葉が口をついて出る。なんで俺は一人でこんな不味い飯を食べてるんだ。

 本当なら、彼女が作ったご飯を二人で食べているはずだ。それは、日々のこの時間の習慣だった。なのに、今食べているのは、セブンイレブンの冷たい弁当。部屋の中には俺一人。

 セブンイレブンの青椒肉絲は、こんなに脂っこかったのか? 今まではまるで気にしてなかった。悲しみは食事の感覚を鋭敏にするようだ。今まで漫然と胃袋に放り込んでいたものの味、食感、舌触りのすべてが、意味もなく言語化される。

 彼女の作る食事は美味しかったんだ。俺の好みに合うようにいろんな食材を用意してくれていた。今更ながらそれに気づいた。気づいたところで、もうどうしようもないが。

 昨日、家に帰る直前に友人に飲みに誘われた。彼女には簡単なメールだけを送って、結局、日が変わるまで飲んだ。家に帰ると、彼女の姿はなく、冷たくなった食事だけが残されていた。食事と一緒に用意されていたケーキを見て、昨日が付き合いだして、一年目だったことを思い出した。

 それにしても腹立たしい。失恋しても腹は勝手に減る。

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