地平線を恐れ

 物心ついた時から、地平線に恐怖を覚えていた。

 ただ広く、開けっ広げな空間がとてつもなく恐ろしかった。何もない大地、遮蔽物のない向こう側、一直線に伸びる地平線。すべてが恐怖の対象だった。

 ただ、彼にとって不幸だったことは、彼の部族が地平線の伸びる平原に暮らす遊牧民族だったことだ。

 マーリブ部族ルブアリハル支族に生まれたハーディは、生まれた時からそんな不幸を背負っていた。

 ゆえに彼は、遊牧をしつつも、地平線を見なくて済む、そんな風景を探し始めた。

 だが、そんなものはどこにもなかった。少なくともこの平原の上には。

 彼が目指したのは山の上だった。そこで山羊を放牧すれば生活はできる。そして何より、そこには地平線がない。

 これは逃げなのだろうか。誰もそうは思わない。これは前進だった。

 彼から見て百代前の先祖。彼は城壁の中に暮らしていた。だが、見渡す限り城壁の立ち並ぶ生活を、彼は嫌った。そして、地平線を求めて城壁を出た。それはちょうど、彼の子孫の心の動きそのものだった。

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