永き釣竿

「釣れますか?」


対岸からふいに話しかけられ、私は顔を上げた。

「いえ、まだ……」と口にしかけたが、そもそも魚を釣ろうと思っていなかったことを思い出した。


「じゃあ何をしているのですか?」


その人はなおも質問してくる。


「多分、貴方と一緒ですよ」


「ああ、この光景を見るのが好きなんですね」


「ええ。でも、ずっと光景を見ているだけなのもかっこつかない気がしまして、こうして釣りするフリをしているのです」


「もうすぐだとは言え、かっこはつけたいですよね」


「ええ、そうですね」


「そちらは後どれくらいもちますか?」


「あと2日だと言われています。そちらは?」


「こちらもそうです。同じですね」


自然と笑い声が重なり合った。


地軸に沿うように地球が真二つに割れて四日がたった。

割れた面は崖のようになり、海水はみるみる奈落へと落下していく。どこまで落ちてゆくのか、全知ならざる私には分かるはずもない。


私は、太陽から見て左側に取り残された。もうすぐ地表からは海が消え去り、水を失ったすべての文明は滅びる。

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