地球最後の日に

 晴れていたはずの空が暗く染まった。

 水平線のかなたから大量のカモメが飛来したためだ。彼らは瞬く間に空を埋め尽くすと、私の頭上を越え、そのまま遥か彼方へと飛び去って行った。聞きなれたはずのその鳴き声は、何万もの羽音に重なりあい、地獄に吹きつける暴風のような音を奏でた。

 カモメたちが飛び去った後の空は曇天になっていた。ほんの数分前まで晴れ模様だった天気のこの変わりよう。まるで熱に浮かされた時に見る悪夢のようだった。恐怖のせいか、喉がひりついて声が出せない。視界は狭まり、一面が灰色になった。

 ポツリ、ポツリ

 鼻頭に落ちた水滴で、雨が降り出したことに気づいた。その雨は瞬く間に激しくなり、伸ばした手の先さえ見えないような有様になった。

「この雨………しょっぱい」

 肌を刺すような痛みを感じ舐めてみると、その雨からは強い塩気を感じた。そう、これは雨ではなく────海水が巻き上げられたもの。

「逃げろ! 津波が来るぞ!」

 そう気が付いた瞬間、誰にともなく叫び、海から急ぎ逃げた。そのまま海辺に建てた自宅に飛び込む。中では、妻と子どもが驚いた顔をしてこちらを見ていた。

「早く地下室に逃げるんだ!」

 顔をぐしゃぐしゃにして叫ぶ。

 子どもは恐怖のあまり泣き叫んでいた。妻はパニックになって、私に怒鳴り散らしていた。だが、もはや時間がない。腰の重い二人を急き立て、子どもに至っては半ば襟首を掴むようにして地下室へと運んだ。

 そしてドアを閉めて、少しでも重しになるようドアの上に座り込む。尻の下からは、二人がドアを叩く音が響いている。

「これで良いんだ! 俺がここにいれば、少しばかりだがドアが重くなる! もうじき津波が来るが、絶対に生き残るんだぞ!」

「違うのよ、あなた! 聞いて! 誰か! 近所の人いませんか!? また夫の発作が出ました! 地球が滅亡するという妄想です! 誰か、聞こえていたら助けて!」

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