啜るモノ

 最初に変だなと気が付いたのは、袋入りのインスタントラーメンを作った時でした。

 ザルでお湯を切って、麺だけをどんぶりに移し替えました。その時に麺が一本だけザルに残ってしまったんです。よくあると思うんですが、ザルの目に麺が深くはまってしまっていて、お箸では取れないし、指で取ろうとしてもドロドロになってしまって。だから、その麺を取るのは諦めて、ザルごと流し台に放り込みました。

 それでのんびりラーメンを楽しんだ後、どんぶりを流しに持って行って、ふとザルが綺麗なことに気が付いたんです。いや、綺麗というのは語弊がありますね。ザルは汚いままだったんですが、目に挟まっていた麺がなくなっていたんです。

 その時は、「あれっ?」とは思いましたが、食器洗いが楽になると思ったぐらいで、そこまで疑問には思いませんでした。

 次に変だと思ったのは、その一週間後くらいだったでしょうか。そうめんを作った時です。これも経験があると思うんですが、お湯を切る時にザルからそうめんが流れ出てしまって、流し台に残ってしまったんです。流し台に出てしまったら、もう汚いじゃないですか。その時もそうめんはそのまま放置しました。

 そうめんを食べるくらいでしたから、いやに蒸し暑い日でした。でも、食べ終わって流し台にどんぶりを入れた時、こう何というのでしょうか、背骨を這うような寒気を感じました。

 なかったんです、流し台に出てしまったはずのそうめんが。

 さすがに気になって、排水溝の蓋を外してネット受けまで見てみました。少しばかりの腐臭がしたのを覚えています。でも、そこにもやはりありませんでした。

 それからというもの、外に出てしまった麺は排水溝ネットまで流しきるようにしました。そうすれば、少なくとも麺がなくなっていることに気が付かないで済むので。


 それから何週間か過ぎたころでした。毎週水曜日が燃えるゴミを出す日なので、蓋をあけてネットを交換しました。ああ、そうです。面倒くさがりなので、あまりネットを変えないんです。

 その時に気が付きました。ネットの中の残飯に麺が一本もないことを。ほかの残飯は中でねっとりと発酵していました。でも、麺だけがなかったんです。

 もう今では自宅では麺を食べないようにしています。だって嫌なんですよ。物の怪でも怨霊でも何でもいいんですけど、こぼれた麺だけを啜るナニカが家の中にいるかもしれないと想像してしまうことが。麺さえ食べなければ、そう思うこともないでしょうし。

 え? そのナニカの啜るものが麺じゃないとしたら、ですか? でも麺だけ無くなっていますよね?

 私が麺を食べなくなったから、細長いものが啜れるなら何でも良くなっているとしたら? いやいや、他に麺みたいなものなんて、家にはありませんよ。

 ……………え、人間の腸?

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