それはAIに似て
「ココは公式を使用シてくだサい。すルと、三カク関数の問題として解クことガ可能とナります」
部屋の中に学習用AIの合成音声が響き、僕は内容を理解しようと必死にシャーペンを動かした。
高校では、明日から期末試験が始まる。
苦学の末に入学した名門高校で授業料免除を得るためには、試験で学年十位以内をキープしなければならない。もし、一度でもそこから外れれば、僕の両親の稼ぎではこの高校に在学し続けることは難しいだろう。
クラスメイトは皆、裕福な家庭の生まればかりだ。授業料を払うことになんの負担も感じない。その上、人間の家庭教師を雇う余裕があり、技術の発展によって安価になった学習用AIなど使う必要がない。
気がつくとすでに夜中の2時をまわっていた。ここまででいいだろう。これ以上睡眠時間を削ると、明日の試験に差し支える。僕はそう考えて、ベッドに入った。
翌朝起きて、朝食を食べ、着替えて登校する。
試験は満点を取れる自信がある。だが、高校に近づくにつれて僕の足取りは重くなっていった。クラスのドアの前に至り、とうとう足が動かなくなった。
それでも意を決してドアを開ける。クラスメイトがこちらを振り向く。その顔には一様にあざけりの色が浮かんでいた。
「よう、おはよう。今日から試験だな。しっかり勉強してきたか?」
クラスメイトの一人が馴れ馴れしく話しかけてきた。僕は慎重に口を開いた。
「ウん。まあ、ボチぼチかな。でも、結コウ自信はあるヨ」
僕の返答を聞き、クラスにどっと笑いが起きる。
───ああ、まただ。また出てしまった。
僕は顔を伏せて、それ以上の会話を拒絶した。
近年、人間の家庭教師から学べる子供と、AIからしか学べない子供との間で、母国語のイントネーションに著しい差が生じていることが問題となっていた。それは、経済格差が生んだ新たな分断であった。
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