どうか死なないで
「……父さん」
「おじいちゃん!どうか死なないで!」
「お義父さん、どうか頑張って……」
白く清潔に保たれた病室の中で、一人の老人が安らかな死を迎えようとしていた。その周りを囲む家族は、みな一様に嘆き悲しみ、一分一秒でも長く彼の魂を現世に留めようと祈願していた。
その声は老人に届いているのだろうか。刻一刻と、心電図が平坦な線を描くようになっている。
「先生、どうにかならないんですか! まだ父とは話したいことがたくさんあるんです!」
「……お気持ちは十分に分かりますが、残念です。我々にできることは、せめてそのご臨終を安らかにすることだけでしょう」
「そんな……」
医師から最後通告を受けた男性──老人の息子は、よろめいてテレビに肘をぶつけた。その拍子にテレビが付き、この場に不釣り合いなニュースキャスターの声が流れ出した。
───先月の選挙で政権交代を果たした⚪︎×党ですが、景気刺激策の一環として、各種税率の大幅な引き下げ策を発表しました。対象となる税は、消費税、所得税、法人税、相続税となります。この政策は即日有効になるとのことで、街では喜びの声が聴かれています。
「先生、父はもう十分に病と闘ってくれたと思います」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます