次の方どうぞ

「本日はどうされましたか?」


 カルテに筆を走らせながら、私は向かいあって座る患者に質問した。平日だというのに、本日も当院の待合室は多くの患者に満ちていた。


「職場の人間関係に悩んでいて……。私は人より仕事が遅くて、よくそれで周りに迷惑をかけてしまうんです。それで……」


「それで体調がすぐれなくなっていると」


 私は患者に先回りして言葉を継いだ。患者を急かすためではなく、患者自身が悩みを言語化しやすくするためである。


「そうなんです。最近、夜は全然眠れていなくて、……それにここが丸く……」


 患者は私に頭頂部を指し示した。そこには、かなり目立つ大きさの円形脱毛が見られた。女性であれば、かなり深刻な悩みであろう。


「なるほど……、分かりました。これ以上症状が悪化しないうちに悩みをなくしてしまいましょう。大丈夫。当院ではどのようなストレス性の症状にも対応してますよ」


 私が笑顔でそう述べると、患者はほっとしたような様子を見せた。


「それではまずはリラックスする必要があります。こちらにぶら下がってもらっていいですか?」


 私が診察用の器具に案内すると、患者はそれに素直に従った。


「はい、ゆっくりと、……そうです。良いですね。身体が伸びてきました。……そのままこちらに来てください」


 どうやら患者は悩みがなくなったようだ。私はふうと息を吐くと、「次の方どうぞ」と、待合室に声をかけた。まだ、そこには多くの患者が残っている。




────カメラ繋がりましたか? はい、こちら現場です。本日未明、こちら後ろにございます廃病院にて、大量の女性の首つり死体が発見されました。遺体は比較的新しいものから損壊が酷いものまでバラつきがあり、警察では事件と事故の両面から解明を進めています。

 なお、この病院では、10年前、病院を経営していた医師が、患者に自殺を勧めた自殺ほう助の罪で起訴され、逮捕前に首つり自殺をしております。警察では、今回の事件との関連性についても調べを進めております。


────ええ、どうやら新たな映像が入って参りました。病院内に立ち入った警察官が撮影した映像です。これはなんでしょうか? 壁に文字が見えます。ええ、これは、『お前もぶらさがれ。死ね。こちらに来い』と読めますが。

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