ガチとモドキ
毎週火曜の午後8時に放送されている恋愛ドラマは、世間から圧倒的な評価を受けている。その世間の例にもれず、僕もこのドラマに夢中だ。主演女優の演技がすばらしく、ドラマが始まると毎回テレビ画面にくぎ付けになってしまう。
だから、たまたま自宅に遊びに来ていた友人から、「このドラマ、何が面白いんだ」とぶっきらぼうに聞かれた時、
「……へ?」
と間の抜けた声を漏らしてしまった。
だが、その友人はと言うと、私の困惑などお構いなしに滔々と自説を話し続けている。
「だいたい、この手の恋愛ドラマって、リアリティがないんだよ。何だよ、ヒロインがイケメンと一緒に職場に閉じ込められるって。電話で助けを求めりゃいいじゃねえか」
リアリティだよ、リアリティ。重要なのは。と、友人はなおも繰り返している。
「でもリアリティって言ったって、こういうのは娯楽なんだから、多少リアリティに欠けてても面白ければいいんじゃないか?」
「ちげえよ。リアリティを出した上で、面白さを追求するんだろ。それが最低限必要の条件だって俺は思うね」
「……そんなもんなのかなぁ?」
「そうだよ。俺が監督だったら、こんなストーリーに絶対しないね。この演出だってひどいもんだ。登場人物の感情表現がまったくなってねえよ。俺って人の感情に敏感だからさ、こういうのマジで許せねえんだわ」
こちらが求めている訳でもないのに、友人はあーだこーだと余計な話を続けた。ドラマに集中したいこっちの都合などお構いなしだ。そんなに良いアイデアだと思うなら、然るべきところにシナリオを応募すれば良いと思うが、そんな気は毛頭ないらしい。
そんなことをぼんやり考えていたら、「……おい、聞いてんのか?」と不満げな声。やっとこちらの反応に気が付いたらしい。顔に苛立ちの表情が張り付いている。
「逆に聞くがな、お前はこのドラマのどこが面白いと思ってんだ? ……ああ、みんなが面白いって言ってるからみてえな薄っぺらい意見は求めてねえぞ」
「いや、この主演女優はね、ストーカー被害に遭ってるんだよ。この回を撮影した日は、自宅で飼ってる猫を殺されてるんだ。マンションからポイってね。なのに、よくこんなに笑顔の演技できるなって思ったら感動しちゃってさ」
自分の意見を素直に語ったが、友人からの反応は鈍い。どうしたのだろうか。
「……ちょっといいか。この女優がストーカー被害に遭ってるなんてニュースあったか?」
「えっ? ……ああ、まだだったのか」
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