異世界転生は計画的に

 これでようやくゲームの世界に転生できる。

 僕の手のひらにある包装された二粒の飴玉。これは、巷で有名な転生請負人なる老婆から買ったものだ。

 ゲームクリエイターになる夢が破れ、現実世界に疲れた僕は、異世界転生を夢見て、何年間もこの飴を探し求めていた。


 夢にまでみた飴玉を口に入れると、僕はたちまち意識を失った。最後に脳裏をよぎったのは、「裏書きもちゃんと読むんじゃぞ」という老婆の言葉だった。



 どれだけ意識を失っていたのだろう。目が覚めると、そこは剣と魔法に溢れるファンタジー世界、……ではなかった。

 部屋だ。それも、四方の壁すべてがこげ茶か灰色のレンガでできた部屋。しばらく茫然としていると、遠くから何やら物騒な音が近づいてくる。

 ジジジ、ドゴン、ジジジ、ドゴーン、ドゴーン!

 不安になって壁に耳を当てた瞬間、突如その壁が爆発した。

「ゴッホ、ゴホゴホ!」

 咳が止まらない、目が痛い、鼻がもげそうだ。まったく何なんだ、この世界は。

 そうして、ようやくほこりが晴れ、開けた視界の先にいたのは、白い宇宙服のような背格好の二頭身の男だった。笑みを浮かべるそいつが手に抱えているのは、……爆弾。


 ボ、ボンバーマン!


 それを認識した次の瞬間、僕の身体は粉みじんに吹き飛ばされていた。



「はっっっ!!」

 気が付くと、もとの路地で倒れていた。

 身体を抱きしめても身震いが止まらない。あれがリアルなボンバーマン目線か。笑顔で爆弾を設置するサイコパスが横行する世界だ。

 それにしてもおかしい。異世界転生と言えば、広大なファンタジー世界と相場が決まっている。いったい何が悲しくてレトロゲームに転生せねばならないのか。


 ……ふと、老婆の言葉が頭をよぎり、包装紙を裏返した。


「この飴玉で転生できる世界は、これまでの人生で最も時間を費やしたゲームから選ばれます」


 嗚呼、何という事だろうか。おそらくファンタジー世界に転生できた者は、幼いころからオンラインゲームが普及していた若い世代なのだ。初代ファミコンに青春をささげた私にとって、最も時間を費やしたゲームは、必然的にレトロゲームになってしまう。


 だが、もうこんな世界に一秒たりとていたくはない。それにレトロゲームでも、ドラゴンクエストのようなファンタジー世界もあるではないか。

 そう決意した僕は、ごくり、と生唾を飲むと、恐る恐る残り一つとなった飴玉を口に入れた。



 ……目が覚めると、ただただ広い空間にいた。足元は灰色のタイルに覆われ、地平線の彼方まで何も存在しない。

 サーッと、顔から血の気が引く音が聞こえた。この風景、見覚えがある。

 プレイヤーとして転生した以上、この広大無辺の世界で僕ができることは、ただ寿命が尽きるのを待つことだけだ。皮肉にも、これは僕がゲームクリエイターを志すきっかけになったゲーム。そのゲームの名は、


「あ、RPGツクールだ……」

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