【あたしと仕事、もう一つの回答編】

【関川さんからの問題編】


 ボクは人生の分かれ道に立っていた。

 右に曲がれば会社への道、左に曲がれば彼女の自宅。


「ねぇ、関川君、ここでハッキリさせて。あたしと仕事、どっちが大事なのよ?」


 また無茶な二択……答えはどっちも大事に決まってる。

 ちなみに真ん中にあるのはただの塀、行き止まりだ。


 時として女性は残酷な二択を突き付けてくる。


「もちろんキミに決まってるさ、でもね……」


「でも、はナシ。よく考えて答えてよね、返答次第じゃあたしにも考えがあるから」


 ボクが働くのはキミのためでもあるんだよ、という答えは門前払いらしい。


 彼女は腕組みして僕の答えを待っている。

 二の腕を指先でトントンしながら待っている。


「さぁ、関川君。仕事とあたし、どっちを選ぶの?」



【回答編】


「さぁ、関川君。仕事とあたし、どっちを選ぶの?」


 残酷な二択……。


 腕組みして苛立ちを露わにする彼女を見つめて、ふっと表情を緩める。


 突然、笑顔になったボクに彼女はぎくりと身を震わせた。

 きっとボクの瞳が憂いを帯びていることに気付いたのだろう。


 しかしそんな彼女を横目に通り過ぎ、左の道、彼女の自宅へと向かい歩みを進めながらボクは言った。



「どちらを選ぶかって? そりゃあキミに決まってるよ」


 満面の笑みを携えて彼女を振り返ると、表情がぱあっと明るくなったのが分かった。


「そう、そうよね! 今日は久しぶりに家でゆっくりする約束だったもの!」


 軽い足取りでボクの横をすり抜け追い越して行く。


 夜風が冷たく頬を撫でた。

 辺りに人の気配は疎らだ。



 そう、大事なのはキミに決まっている。


 ボクの愛する最高の彼女、今回の仕事のターゲットだからね。


 高鳴る鼓動を押し殺しながら、ポケットに忍ばせた仕事道具をゆっくりと撫でる。


 時間をかけて愛して、焦らして、不安を煽り、そして安堵させる。極上に育てた幸せを、美しく永遠に刈り取る。


 全てを手にする瞬間に想いを馳せる。



 高揚感が増して行くのを感じた。



 もうすぐ彼女の自宅が見えてくる。


 ボクだけの彼女。大事に仕舞っておくか、それともみんなに自慢しようか。

 

 さて、どうやって仕上げようかな。


 迷ってしまうな。



 どちらにしろ、綺麗に刈り取ってあげなきゃね。




 そうでなければ、君を愛しているとは言えないからね。




【殺し屋関川の優雅な仕事】——END

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