第30話 行き先は

 「よいしょっと」


 ドサッ!

 ギルドのカウンターにシャンスがパンパンのリュックを置くと係の人が目を丸くする。

 ドラゴンの谷と言われる場所に行くためには、馬車で向かわないと行けない。けどシャンス達にはお金がなかった。そこで、シャンスがドロップした物で高価そうなものと依頼があった物をリュックに詰め込み持ってきたのだ。


 「ふう。とりあえずこれ買い取りお願いします」

 「また随分と集めたね。数があってもあまり期待しないでくださいよ。おも……」


 期待するなといいながら持ち上げた係の者は、リュックを抱えてフラフラと奥へと向かう。


 ”鑑定して錬金術の材料とかレアっぽいのも入れたからそれなりに……”


 「ちょっと君! これどうやって集めたの?」


 奥に引っ込んだと思った係の者が、すっ飛んで戻って来た。


 「え? どうやってって戦闘してドロップ……」

 「三人で? それでもドロップ率凄くないかい? めったにないのがごろごろあるんだけど!」


 興奮ぎみに言うので、どう答えようかと焦る。

 ここでドロップ確定の持ち主だと知れれば自然と、相手が探していた人物の黒髪の少年だと気づくだろう。しかも今度は、髪を染めてアイテムを大量に持ってきたのだ。


 「そんなの秘密に決まっているだろう? 教えなくちゃいけないのかよ」


 クルフルが係の者にそう言うと、メレーフがうんうんと頷く。シャンスは引きつった笑みを浮かべる。


 「まあそうなんですけど……計算が終わるまで少しお待ちください」


 係の者は、まだ何か言いそうだったが奥へと戻って行った。


 「おい、シャン。目を付けられているならもう少しアイテム選べって言っただろう」


 小声でクルフルが言った。


 「あ、うん。あんなに驚かれるとは思わなかったんだよ」


 シャンスも小声で返す。

 シャンスにしてみれば、お金が欲しかったので高そうなのも数個入れただけなのだ。今背負っているリュックにも、出したが売るのに入れているないアイテムがぎっしり入っている。一応選別はした。

 彼以外は、ドロップも数回に一回でレアも続けて出る事は珍しい。日を改めバラバラに持ってくればよかったのだ。


 「はい。お待たせ。今度は溜めずに持ってくるといいよ。奪われたら困るだろう?」

 「おぉ、すげぇ」

 「凄い大金だね。これならポンポタ街まですぐに行けるわね」

 「ありがとうございます」


 シャンスは、お金を受け取り財布代わりの巾着に入れると、鞄にしまった。


 「ちょうど今日、ポンポタ方面に行く馬車が出る日なんだ、行こう」

 「うん」


 建物の外へ出ると、クルフルが馬車乗り場を指さす。


 「……巻き込んだ上にお金まで用意させてすまない。絶対にお金は返すから」

 「え? いいよ別に。クルフルが試練を乗り越えれば、モンスターを地上に出現させなくて済むんだから。このリュックに入っているのも他の街で売ろう」

 「ありがとう。でもいいのか?」

 「重いから……」

 「そうじゃなくて、自分の為に使わないのって事」


 ”自分の為か。情報集めぐらいだろうけど、聞いてあるいていたらその情報が相手の耳に入りそうだしなぁ”


 「自分の為に使うけど、一度お金に換えておくよ」

 「うん。そうだね。確かに重そうだ」

 「それって戻せないの?」


 メレーフが、鞄を指さす。


 「一度出したら戻せないんだ」

 「やっぱりそうだったんだ」


 三人が馬車乗り場に到着してしばらくすると、ポンポタ方面に行く馬車が到着した。20人で満員の馬車からは、人数オーバーだろうというダンジョンサーチャー達が降りて来る。


 「ダンジョンが発見されたから人がまだ来てるな。それに比べ……」


 クルフルがぼそりと言った。

 乗り込んだのは、シャンス達三人だけだ。向かおうとしている街は辺境で、ダンジョンが一つしかないので、向かう人はあまりいなかった。


 ポンポタ街には、途中の街で二泊して三日目の夕方着く予定だ。

 三人は他に客がいないので、打ち合わせを馬車の中でするのだった。





 「ここが反応があった街か。ここって確か、新しくダンジョンが見つかった街。サーチャ? なるほど。ご婦人ではなかったか」


 ぶつぶつと言いながら辺りを見渡して歩く男は、サーチャーギルドへ向かっていく。サーチャーには見えない彼がギルドの建物の入っていくと、なんだとみんなの注目を集めた。


 「ちょっとお尋ねしたいのだが」

 「これは珍しい。協会の方がどのような用件で? ちゃんと儀式の紙は配り終えてますが?」


 フードがついた白い外套には、背に光の精霊のモチーフが描かれている。オール教の正装だ。その者が、サーチャーギルドに来る用事となるとそれしか思い浮かばない。


 「その件ではありません。不審な行動をとったサーチャーはおりませんか?」

 「……? 不信と言われますとどのような? あ、黒髪の少年の事ですか?」

 「黒髪?」

 「はい。死んだ少年になり代わっていたんです」

 「ほう。それはいつの話です?」

 「見つかったダンジョンが解放される前です」

 「いえ私が探しているのはその者ではないようです。解放された後、大量にアイテムを売ったり、依頼を行った者はいませんか?」


 かすかに残っていた魔力をたどるとここにたどり着いた。ふと追われていると気づいて逃げたのではないかと彼は思い、路銀を手に入れる為に中級者ダンジョンで稼いだのではないかと思ったのだ。


 「あの3人組……で、その子達にどのようなご用が?」

 「伝えたい事がありまして。どこへ行ったかご存じありませんか?」

 「……さあ? わかりませんね」

 「そうですか。ありがとう」


 軽く礼をすると、スタスタと出口に向かい進むと、また注目を浴びるのだった。


 「おい、あんた。いいネタあるんだけど?」


 オール教の彼が振り向くと、ガラの悪いサーチャーが立っている。


 「ネタとは?」

 「あんたが追っている相手の情報」

 「追っている? 先ほど話を聞いていたのならわかっているでしょう。追っているのではなく、探しているのです」

 「ふーん。どっちでもいいけど……お、わかっているじゃないか。あいつらはポンポタに行くって言っていたぜ」


 お金を握らせると、ニヤッとしてそう言った。


 「そうですか。ありがとう」


 軽く頭を下げ、彼はまた歩き始める。


 「3人組の子達か。思っていたより若い。でも逆に探しやすい。しかしポンポタか。なぜにそこへ?」


 もしかしたら探している相手と違うかと思うも向かってみる事にするのだった。

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