第29話 選択の余地はない

 遥か昔からモンスターは存在していた。そのモンスターは地上に存在し、生き物を襲うだけではなく、建物や自然を破壊していたのだ。

 人間だけではどうにもできなく、精霊が力を貸す事になった。だが特別な力を授けても中々数が減らず、上位精霊の闇と光が力を合わせダンジョンなるものにモンスターを移動させる事に成功する。

 ただしこれには、人間の力も必要だった。モンスターを減らさなくてはならない。そして、契約という祝福として人間の代表もまた、この状況を維持する事になったのだ。


 ――その子孫が、クルフルの子孫なのだろう。


 闇の精霊が、クルフル達にそう大雑把だが説明した。

 一番安全な場所と思いついたのが、クルフル達が住む森の中。三人は、昨日言われたばかりなのにまた、シャンスを連れクルフルの家に行ったのだ。

 半ば諦めた様にため息をついたベリーナは、シャンスを招き入れヒルダ共々闇の精霊の話を一緒に聞く事になった。


 「なぜクルフルが選ばれたのだ……」


 祝福とは名ばかりではないかとベリーナは、いや闇の精霊以外は思った。


 ――仕方なかろう。それが人間との取り決め、契約だ。光の精霊が言う事を実行し行う事により光の精霊の力が増す。契約の証でもある祝福は、個人のモノではなく地上全体に対してという事だな。それでもかなりの恩恵はあるはずだ。


 「それは、他の者に譲れないのか?」


 祝福という名の縛りだと思ったベリーナは、闇の精霊に問う。


 ――一つしかない。それは死だ。祝福は、受け継いだ者の死により、次の者に受け継ぐ事になっている。光の精霊が言った事をしなかったとしても祝福は消えも移りもしない。ただし、祝福の効果が薄れたままだ。受け継いだ人間と光の精霊との確かな契約がなされる事で、効果が増す。


 「それが、親子を助ける事って事なのか。逃れられない呪縛みたいだな。なんで俺なんだか」


 クルフルが、大きなため息をつく。


 ――そう言うな。精霊の力でもモンスターは全ては駆除できない。被害を少なくする為だ。これでもかなりモンスターの力を抑えているのだぞ。


 「え? そうなの?」


 シャンスが驚いて聞いた。


 ――ダンジョンに発生させる事によりレベル分けさせる事に成功し、強いモンスターを地下に置く事により地上へ這い出る可能性を減らした。新しく出現するダンジョンがあるという事は、モンスターの力を分散させている為だ。それすらままならなくなると、モンスターは地上に出現するだろう。


 「そうならない為には、俺が光の精霊の言う事を聞かないといけないのか」

 「ねえ、おばあちゃん。もしかしたらあの人、協力しようと思って痣が出たらって言ったんじゃないかな?」


 メレーフの言葉にベリーナは、ため息交じりに首を横に振った。


 「彼が、ちょうどよく現れた事から監視していたのだろうな。そしてこの場所をあてがった。だとしたら本当の兄だと婚約破棄される前に名乗り出てくれてもよいだろう。彼は自分の都合で動いている。協力という建前で本音が何かわからない」


 ”ベリーナさんにとって、あの男の人って凄く悪者なイメージなんだ。少なくとも痣があったら殺そうとはしてないみたいだけど。本当の狙いってなんだろう?”


 ――本当も嘘もないだろう。ただ大っぴらにしていないので、密かに事を運びたいのではないか?


 「闇の精霊よ。あなたも人の本質というものを知っているだろう。契約は昔の人間がしたもので、今生きている人間が同じ思いを持っているとは限らない。その痣があるだけで、それなりの恩恵があるのだろう? だったら喉から手が出るほど欲しいのではないか。自分が受け継がなかったのならその者を囲う。元からそのつもりで、逃げ場のない我々をここに置いていると私は思っている」


 ベリーナは真剣な顔つきで、闇の精霊がいるシャンスを見てそう語る。


 ――そう思うなら自分達だけで行えばよい。嫌でなければ我も手を貸そう。


 「なぜあなたが?」


 ――契約が破綻しないようにだ。クルフルが死ねば祝福が途絶える。


 「え?」

 「私に移るのかと思ってった」


 メレーフが自分を指さし言う。


 ――血を遡る事はない。自分の子、または孫に受け継がれる。


 「なんだよ、それ。めちゃくちゃ重い呪縛じゃないか!」


 クルフルが叫んだ。


 「まさかこんな事になるなんて……」


 ヒルダが顔に影を落とす。


 ”うん? 闇の精霊が手伝うって事は、僕も一緒に行くって事?”


 ――そうだ。


 「えぇ。僕、足手まといじゃない?」

 「いいや、心強いよ」

 「二人を宜しくお願いします」


 立ち上がり礼をするヒルダ。


 ――うむ。任せるが良い。


 ”大丈夫かな?”


 ――ちゃんと我が、指示してやる。心配ない。


 「え? それが不安」


 シャンスの言葉に、クルフルとメレーフがうんうんと頷く。


 ――戯け! 不安となんだ。安心の間違いだろう!


三人を見てベリーナとヒルダも少し不安になるのだった。

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