第28話 希望の光

 「シンセージュ猊下」


 そう呼ばれ振り向いた彼は、光の精霊を崇めるオール教のトップだ。ネクトライト王国で王族の痣の事を知っている――いや、祝福の管理をしている者で、王族を監視する役割。


 「これはダルダル殿。どうでしたかな?」

 「はい。それらしき痣はなかったようです」

 「そうか。明日、国民にデバレード様がお亡くなりになった事を発表する。準備抜かりないな?」

 「はい」

 「後は陛下共々調べるだけか……」


 シンセージュは、本物の金の瞳を細めた。


 ”彼にはあるまい。あるならすでに私に見せているだろう。なんとしても生きているだろう彼女を探し出さねばな。そして、我が息子と王女の間に子が出来た時にその者を――”


 「猊下?」

 「なんだ?」

 「宰相が動き始めました」

 「なら何か手を打つか」


 そう言うとスタスタとシンセージュは歩き出す。

 彼は知っている。ブルーベに妹がいた事を。彼の瞳が本来は金色ではない事を。


 次の日、前陛下のデバレードが亡くなった事が発表され、国中が悲しみに包まれた。表舞台に現れなくなったが現陛下より人気があったのだ。

 今日より三日間、ともしびの儀が行われる。国民が放つ光によって、光の精霊の元へと誘う儀。

 キャスアーズ街でもそれは行われる。専用の光の紙が配られていた。


 「はい。どうぞ」

 「あ、どうも」


 朝、街に来たシャンスも渡される。


 「なんだろう、これ」

 「これに魔力を込めると光りながら浮くんだってさ」

 「あ、クルフル。二人とも、おはよう。昨日大丈夫だった? あれからさらに怒られてない?」

 「おはよう。大丈夫って、そっちは大丈夫じゃないみたいだな」


 クルフルが自分の目を指さす。シャンスの眼帯の事を言っているのだ。


 「ううん。大丈夫。見える眼帯を作ったんだ」

 「え? それで見えるの? 凄いね?」


 メレーフが、目を丸くして驚く。


 「あはは。でもよくわかったね」


 紐は黒いが透明度が凄いので気づかないと思っていたので、シャンスも驚いた。


 「そんなのしていたら気づくだろうに」

 「そう? それよりこれ、なんの為にやるんだろうね? こんなお祭りあったっけ?」


 左手に乗せた丸まった直径5センチほどの紙を見つめシャンスは言う。


 「何でも前陛下が亡くなったとか。王族がなくなったらする儀式らしいよ。まあ行っているのは、オール教らしいけど。これ神聖な紙らしい」

 「へえ」


 シャンスは、何気に右手に紙を乗せた。


 <――紙

 『解説:魔法陣が描かれ丸められた紙』


 ”神聖な紙ではないの?”


 ――それからは少しの魔力が感じられる。魔法陣が描かれているただの紙だろう。


 闇の精霊が、シャンスにだけ聞こえるように言った。


 「………」

 「どうした?」


 紙を見つめ、難しい顔をしているシャンスにクルフルが聞いた。


 「え? いや何でもない。それやるのっていつでもいいのかな?」

 「たぶん。あちこちですでに飛ばしている人を見たし」

 「ねえ、私達もやろうよ」


 三人とも頷くと、紙に魔力を込める。そうするとふわりと紙が光って浮かび上がり、空へと昇っていく。


 「凄い。これ夜にやったら綺麗だね」

 「だろうなぁ。あのさ、俺達ちょっとの間、旅に出る事にしたんだ」


 クルフルが、空に昇る紙を見つめそう言った。


 「え? 違うダンジョンに行くの?」

 「いや、ちょっと野暮用」

 「そうなんだ」


 寂しそうにシャンスは言う。


 ――やはりそうか。


 ”うん? やはりってなに?”


 ――何でもない。


 ”ふーん、そう。呪縛解いちゃおうかな。解き方知ってるし”


 ――戯け! 精霊を脅すとは何事だ!


 ”教えてくれてもいいじゃないか”


 ――光の精霊が課した事を実行しに行くのだろう。


 「え? 祝福ってそういうものなの?」

 「! もしかして闇の精霊って祝福の内容を知っているのか?」


 驚いてシャンスが言葉を発すると、それに驚いてクルフルが聞いた。


 「「………」」


 クルフルとシャンスは、気まずく見つめ合う。


 「ごめん、精霊に聞いちゃった」

 「そっか。祝福だって言ったの闇の精霊だもんな……。俺には重すぎるけど、そうしないとモンスターが……」

 「え? モンスター? どういう事?」

 「「え?」」


 シャンスの問いに、クルフルとメレーフが逆に驚く。


 「全部聞いたんじゃないのかよ!」

 「あはは。光の精霊に課題を出されたって話しか聞いてない」

 「鎌掛けたのかよ……」

 「そういうわけではないんだけど。けどどうしてそんな凄い内容なの?」

 「わからない。闇の精霊なら知ってるのか?」


 シャンスの問いにクルフルは、シャンスをいやシャンスの中にいる闇の精霊を見つめた。


 ――やれやれ。この者には調子を狂わされる。いいだろう。話せる事を話そう。その前に場所を移すぞ。


 闇の精霊は、そう話しかけると三人とも頷いた。

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