第27話 精霊の声

とん。


 「あ、ごめんなさい」


 シャンスは、人とぶつかって謝った。


 ”やっぱり何となく距離感がつかめないや”


 ――そのうち慣れる。


 ”そういえば、精霊の声って周りには聞こえてないんだね”


 闇の精霊が語るも誰も声に反応を示す者がいなかった。


 ――声は、精霊と契約を交わしている者。それに、話しかけたい相手にしか聞こえない。


 ”そっか。ダンジョンでは、君は僕に話しかけたから僕に聞こえ、クルフル達は精霊と契約していたから聞こえたのか”


 ――そういう事だ。ところでこれからどうするのだ?


 ”夕飯も食べたし、ダンジョンに戻るよ”


 ――戻るとは? 宿に泊まるのではないのか?


 ”そうしたいんだけどね、ちょっと事情があって泊まれないんだ。後、出来れば左目も地上で見えるようにしたい。復讐するのに困る”


 ――仕方がない。その場しのぎになるが、何か透明なモノはないか? ビニールの類でもいいぞ。


 ”あ、ある。点眼を作るとき使った皿”


 ――皿?


 シャンスは、肩掛け鞄に手を入れまさぐる。透明度が凄い皿を出した。


 ――戯け! 筒に作ると書いてあっただろうに。


 ”それが、液体も最初から一滴分ぐらいだったから。これの方がいいかなって。これでもいい?”


 ――まあ硬いがいいだろう。回復薬微小にスライムの核レベル1を11個入れよ。出来上がったらそれにかける。ついでに何かひも状の物も用意しておけ。


 ”うん。ってそれってMP回復薬?”


 ――作ってみればわかる。


 ”わかった”


 透明な皿を鞄に戻し、スライムダンジョンへ向かう。一階で少しスライムを狩り30階にワープ。30階のスライムを蹴散らした後、言われた通りMP回復薬を作った。


 <――闇のベール(スライム液)

 『解説:スライム錬金で作った特殊な液体』


 「あれ? MP回復薬じゃない。しかも解説を読んでもさっぱり用途がわからないんだけど」


 ――本来ならこれだけはできないが、我が力を貸そう。ほれ、あの皿もどきにその糸を乗せ、それをかけるのだ。


 透明度ゼロの真っ黒な液体。それを皿にかければ、間違いなく真っ黒に染まるだろう。そう思ってちょろちょろとかけていくと、スーッと吸い込まれる様に黒い液体は消えていく。染まったのは、糸だけだった。


 「凄い。透明なままだ。しかも柔らかくなった」


 ――即席、眼帯だ。それをつけて街へ行ってみるといい。


 頷き、シャンスは街へ向かう。


 「錬金って凄すぎだ。左目が復活した」


 シャンスは感動していた、前の通り普通に見えるからだ。


 ――我にかかれば、こんなもの造作もない事。


 ”なるほど。精霊ってものづくりの名人なんだ。人じゃないけど”


 ――戯け! 魔法の一種だ。


 ”じゃその魔法で結界みたいの作れない? スライムダンジョンで安全に寝泊りできるように”


 ――ノートを見ればいいだろうに。


 ”うーん。なんか呪縛が怖くなっちゃって……。今まで無謀だったなって”


 ――今更だろう。それに眼帯は我が手伝ったから呪縛がないだけで、おぬしが一人で作れば、我の指示だとうと呪縛のモノは呪縛付きだ。


 ”え~”


 ――嫌ならこれ以上増やさなければいい。


 ”仕方がない。前みたいに森で寝よう!”


 ――………。好きにせい。





 ――祝福を受け継ぐ者よ。応えよ。


 「だれ?」


 真っ白い何もない場所でクルフルは呼ばれ辺りを見渡した。

 と、目の前に光りが現れる。


 「もしかして光の精霊?」


 ――そうです。今回はあなたのようですね。では、意思を示してください。


 「意思って?」


 ――このまま祝福を受ける意思です。


 「えっと、どうやって?」


 ――ある親子を助けるのです。


 「それをしないと祝福は取り消させるの?」


 ――はい。破棄され、祝福はなくなります。


 「あのさ、この祝福って何? なぜ俺に……」


 ――受け継ぐ対象の中で最も相応しい者が受け継ぎます。あなたは人間の代表に選ばれたのです。さあ、ドラゴンの谷へ向かってください。麓の山から行けますので、そこでお待ちしています。


 「待って! 祝福の内容って?」


 ――モンスターを地上で復活させない契約です。


 「え? 何それ!?」


 クルフルは気が付くと、天井を見つめていた。


 「夢? 啓示? って、これとんでもないじゃないか! 俺には重すぎる。けど……行かないと地上にモンスターがあふれる? あぁもう!」

 「クルフル?」


 夜中に叫んだクルフルを心配して、メレーフがドアから覗き込んでいる。


 「あ、ごめん。起こした?」

 「ううん。寝れなくて。そっち行ってもいい?」

 「うん」


 メレーフが、ちょこんとクルフルのベッドに座った。


 「モンスターがあふれるって何?」

 「あははは。聞いていたのか。どうやらこの祝福を受け継ぐ者の宿命みたいのがあって、試練を受けないとダメみたいだ」

 「もしかして、試練を乗り越えないとモンスターだらけになるの?」

 「かもなぁ。夢だったらいいんだけど。光の精霊からの啓示だと思う。ドラゴンの谷なんだけど一緒に行ってくれるか?」

 「うん。二人で力を合わせよう。そう約束したよね?」

 「ありがとう、メレーフ」


 もしかしたらメレーフが受け継ぐかもしれなかった祝福。何があっても二人で乗り越えようと寝る前に誓い合ったのだ。


 「しかし、遠いなぁ……」

 「うん、遠いね」


 二人してため息をつくのだった。

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