第25話 早く言ってよ
「何故ここに連れてきた。ここに来れたという事は、精霊との契約者だろうが」
ため息交じりでベリーナが問う。
「ごめんなさい。えっと、痣が出た時シャンもいて知っていて、それで呪いを解く手助けをしてもらおうとしたら失明して……」
クルフルは、うまく説明できなかった。ここまで怒るとは思っていなかったのだ。
「そうか。とりあえず中に入りなさい」
ベリーナにそう言われ、全員建物の中に入った。
中はテーブルにチェアが4つぽつんとあるだけで、一切余分な物がなく質素な感じだ。後は、扉が二つに二階へ上がる階段。暖炉に調理場。
「今、フルーツジュースでも作るわね」
シャンスは促されるままチェアに座る。隣にクルフル、向かい側にメレーフが座り、その横に自分の部屋から持ってきたロッキングチェアに座るベリーナ。フルーツジュースをテーブルに置くと、母親であるヒルダがメレーフの横のチェアに座る。
「どうぞお飲みになって。あ、見えないんだったわね」
「いえ。見えないのは左目だけなので、ありがとうございます」
「お母さん特製、森のフルーツジュースよ。甘くておいしいのよ」
メレーフに言われ、シャンスはこくんと頷くと一口飲む。フルーツの香りが甘さと一緒に広がる。
「おいしい」
「で、わかるように説明せい」
ベリーナに言われ、クルフルとメレーフは今までの出来事を話した。左目に点眼した開眼点眼で見えなくなった事。そして、闇の精霊とシャンスが契約した事など。
「闇だと? まさか上位精霊とか?」
「上位?」
ベリーナの言葉にクルフルが復唱する。
「樹などに宿る精霊は下位、水、風など元素などに宿るのが中位、そして闇と光は、上位と言われている」
「そうなんだ。じゃ俺たちは、樹の精霊だから下位って事?」
「そうだ。それでも人間よりはるかに凄い力を持っている」
”クルフル達の精霊って樹の精霊なのか。というか、精霊にも分類があったんだ”
シャンスは段々と落ち着いてきていた。
「闇の精霊よ。人間は弱い。片目が見えなくなるだけで、戦闘力が劣る。どうにかならないか?」
――まったく。明るい場所で見えなくなるぐらいの呪縛で騒ぐとは。
「うん? 明るい場所?」
闇の精霊の言葉にシャンスはそう聞き返す。
――ダンジョンでは見えいていただろう。今、おぬしの左目はダンジョンより明るい場所では暗さが増す。太陽の下では、真っ暗に見えているだけだ。失明などしておらん。
「えー! それを早く言ってよ」
「よかった。失明じゃなかったんだ」
「もう、びっくりした」
ホッと安堵する。
「シャンと言ったか。我々がここにいる事は内緒にしてほしい」
「あ、はい。わかってます」
真剣な眼差しでベリーナに言われ、シャンスも真剣な顔つきで頷いて返した。
「ご、ごめんな。なんか色々迷惑かけちゃって……」
「え? ううん。僕の方こそ。色々教えてもらって助かったよ」
「さて解決もしたし、私達はこれから大事な話がある。悪いが今日はこの辺で帰って頂いてよいか?」
「あ、はい。ご馳走様でした。ありがとうございます」
ベリーナの言葉にシャンスはお礼を言って立ち上がる。
「ごめん。連れてきて追い返すようで……送るよ」
「うん。大丈夫。ありがとう」
クルフルは、来た時と同じく樹に触れた。そうすると、キャスアーズ街の大きな樹の前にワープしていた。
「ここって……」
てっきり元の場所に戻ると思っていたのでシャンスは驚く。
「戻るのはどこからでも出来るけど、結界の外へは決めた樹の場所にしかできないんだ。それがこの樹」
「えっと、色々ありがとう。その、また何かあったら僕でよかったら力になるから」
「うん。ありがとう。その時はぜひ」
ちょっと悲し気にクルフルは返し、樹に触れ姿を消した。
”なんであんなに悲し気なのかな? 呪縛でなくて祝福だったのに。僕のせい?”
――あの男が絡んでいるのだろう。おぬしには関係ないのではないか?
”結構冷たいね”
――冷たい? おぬしがあれこれ考えたところでどうしようもないだろう。ところで問いたい。なぜ簡易鑑定が出来るアイテムを装備しているのに、レベル制限のあるリングを装備しているのだ?
「え……」
闇の精霊と契約してからそれらの事を考えた事もないのに知っている事に驚く。
”どうしてわかったの?”
――そういうモノは、見てわかる。呪縛のアイテムを先に装備したのか? まあそのお陰でスライム錬金をしてくれたのだからいいのだが。
”知っていて付けたんだ。復讐の為にね”
――復讐か。なるほど。まあ止めはしないが、闇に飲まれるなよ。我が欲しいのは純粋に居場所だからな。
”よくその定義みたいのはわからないけど、君が居れば大丈夫なんでしょう? いざとなれば呪いを解けばいいし”
――戯け! それをしたらおぬしを選んだ意味がないだろうが。
”あはは。よっぽど闇が好きなんだね”
シャンスは、闇の精霊と会話しながら街の中を歩いていた。
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