第24話 謎の男
森の奥深く、開けた場所にぽつんと佇むログハウス。その横には、小さな畑に小川。それらをすっぽりと覆い隠す様に伸びた枝が頭上に張り巡っていた。そこから差す太陽の光が眩しい。
とその場所へふと一人の紳士が現れた。年齢は50代ぐらいだろう。上品な出で立ちで高貴な者だとすぐにわかる。その者が数歩進みドアの前に来ると、少しドアが開きその者の様子を伺う様に見つめていた。ヒルダだ。
「久しいな。ベリーナはいるか?」
「ブルーベさん、何か御用ですか?」
ヒルダの後ろに立つ彼女の母親でクルフル達の祖母ベリーナが厳しい顔つきで返す。
「父上が亡くなった。この意味、わかるな?」
「そうですか。ご愁傷様です」
「他人事だな。あなたの本当の父親でもあるというのに」
その言葉に、ベリーナが暗い顔つきになった。
「私の本当の父親? 一度もお会いした事もなく、あなたにでさえ今日で3度目。ここに匿って下さってくれているのには、感謝しております。私たちの事はどうかこのまま、放っておいてください」
「……匿っているのは、精霊だがな。私も忙しい。すぐに本題に入ろう――」
何を言われるか二人にはわかっていた。でも答えるつもりはない。
◇
「本当に魔法陣なしでワープできた!」
一人驚いて喜ぶシャンスは、森の中を見渡す。用事がなくなったので一旦ダンジョンの外へでようとなった時、闇の精霊がワープできるというので試したのだ。
”なんだろう? 何か違和感がある”
それが何なのかシャンスはわからない。
「ありがとうな、シャン。この痣が祝福だってわかって良かったよ。でも、大丈夫か? えっと……精霊だから問題はないとは思うけど」
「え? あ、うん。害はないみたいだし」
直接はないだろうが、間接的にはあった。スライムアルケミストノートを作った精霊なのだから。
「しかし、呪縛を喜ぶ精霊がこの世の中にいるとは思わなかった」
――我が好むのは闇。わかりやすく言えば、それがないと力が発揮できない。あの場所から移動するのには、違う闇の中に潜むしかない。そうなれば作り出した闇に身を置くのが一番だ。
クルフルの言葉に、闇の精霊がそう言った。
「闇を作るには呪縛が必要ってわけか」
――そうだ。あと一つ、闇を作り出すモノがある。それは負の感情。一番奴らが好むものだろう。我は好まないから作り出したのだ。
「そう。いいんだか悪いんだか」
森から出る頃には、強い西日になっていた。日差しが眩しい。
シャンスは、眩しさに片目をつぶる。そうすると、真っ暗になった!
”え? なんで?”
瞑ったのは右目。驚いて左目を瞑ると右目では見える。つまりは、左目は見えていなかった。
「う……そ……」
”見る事が出来なくなるってそういう意味? 失明!!”
そうわかった時、シャンスは体の力が抜けその場に座りこんだ。
「シャン? どうした?」
「具合悪いの?」
「み、見えないんだ。左目が……」
「「えー!」」
シャンスの言葉に、二人も驚いた。
「俺のせいだ……」
違うと言いたいが、シャンスはあまりの事に何も考えられなくなって、茫然としていた。今までは、髪の色が変わる。魔力の提供程度だった。なので今回もそんな程度だと思っていたのだ。
そして、ツインレッドの二人に復讐するのに片目だと不可能だとシャンスは愕然とする。
「どうして! そこまでの呪縛はないと言ったのに!」
――問題なかろう。歩けるのだから
「え……」
「精霊と俺達とは感覚の差がある。とりあえず、俺の家に来て。俺の責任でもあるし」
ぐいっとクルフルに引っ張られ、シャンスはふらっと立ち上がった。引っ張るクルフルはなぜか、森の中へと入っていく。
「この樹でいいかな? 家へ」
クルフルが樹に手で触れそう呟くと、一瞬で違う森の中にワープした。そこは、森の中に佇むログハウスの前。
「え……」
驚いて言葉を発したのは、シャンスではなくクルフルだ。家の前に知らない男が立っていたからだった。
「どうやって……」
「うそ、結界の中に」
メレーフも驚き、クルフルの後ろに隠れる。
男が、三人に気が付き振り向いた。紫の髪に金の瞳。
「誰だ!」
「ブルーベと申す。大きくなったな。では近いうちにまた……」
ブルーベはそう言うと、その場から姿を消した。
「やっぱり精霊と契約した人。って俺達を知っている?」
「え? どういう事? お母さん達の知り合い?」
シャンスも驚いていた。引っ張られたと思ったら知らない場所へワープして、目の前で魔法陣もなしに人が消えたのだ。自分自身もさっきダンジョンから魔法陣なしでワープしここにもワープしてきたが、普通は魔法陣なしではできない事だった。
「帰ったか。ちょうど……人は絶対に連れて来るなと言ったのに」
ベリーナがシャンスを見て、眉間にしわをよせそう言うと、今までないほど怖い顔つきになりクルフル達は驚く。
「………」
何とも言えない沈黙が流れるのだった。
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