第23話 闇を好む精霊

 ”精霊なんだ。しかもこれで大きいとは……”


 「まさか触れる事でトラップを解除出来るとは思わなかったけど、それよりボスが精霊だなんて聞いてない」


 ――戯け! 誰がボスだ。ボスは100階にいる!


 「え? 100階!? 50階に行ってスライムの核を手に入れられる!」


 クルフルが、嬉しさのあまり声を上げた。


 「でも精霊を倒さないといけないの?」


 ――だからボスではないと言っている。


 メレーフが呟くと、そう精霊から返ってきて三人はパーッと顔を明るくする。


 「じゃ、ここを通らせてくれるんですよね?」


 ――ならん。ここは我のテリトリーだ。


 「え……」


 今度は、精霊の返事で三人は顔を曇らせた。


 「偶然開けれたのはいいけど、通れないんじゃなぁ…」


 ため息交じりにシャンスが呟く。


 ――偶然? 必然だ。その扉は複数の呪縛を受けし者しか開けられん。どうしても通りたいのなら我と契約するか? おぬしのそのを与えよ。


 「今、なんて……呪縛を受けし者?」

 「しかも複数ってどういう事? クルフルだけじゃなくてシャンも受けていたの?」


 ”確認してわかった上でだけどね。そう言ったら引かれそう”


 「えーと。そ、それより呪縛がわかると言う事は、解けたりする?」


 ――戯け! なぜ解かなければならない。その呪縛した体が欲しいのだ。


 「………」


 ”精霊って呪われた人が好きなの?”


 「ねえ、クルフル。見た目精霊だけど本当に精霊?」

 「俺に聞くなよ」

 「あのさ。僕じゃなくて、彼のなんだけど」


 ――何を言っている。その二人は呪縛など受けておらん。それどころか精霊と契約している者ではないか。


 その言葉に二人はビクッと体を震わし、シャンスは驚いて二人に振り向いた。


 「本当なの? だから精霊だってわかったの?」

 「あ……まあ。でも俺らが知っている精霊と性格が全然違うと言うか、な」

 「うん。お願いの内容も違うよね」


 ――人間の願いがそれぞれの様に、我々の願いもそれぞれ違う。


 「うん? まって。クルフルは呪われてないの?」


 ――ないと言っている。


 ”僕の呪縛の数が多すぎて、わかりづらくなってる?”


 「ここだよ! ここに痣が」

 「うわぁ」


 突然シャンスに左手を引っ張られ、クルフルはよろける。


 「この包帯の下」


 ――戯け! それは祝福だ。呪縛と祝福を一緒にするとはな。


 「「「えー」」」


 三人は、声を揃え驚いた。


 「どういう事?」


 ――我に聞くな。それよりどうするのだ?


 ”よかった。呪縛じゃなかったんだ”


 「クルフル。おばあちゃんに報告しようよ。呪縛じゃなく祝福だったよって。これなら殺される心配ないよ」

 「そうだな……。なあ、シャン。お前、一体何があったんだ? 複数の呪縛って?」

 「えーと」


 ――ほとんどがスライム錬金によるものだろう。あのノートは、呪縛を受けたモノにしかドロップしないし、作るほとんどのモノに呪縛がある。


 ”凄く詳しんだけど”


 「なんだって! じゃ知らずに呪縛を受けていたって事かよ。ごめん、俺知らなくて、もしかしたらさっきの点眼も呪縛があったかもしれない」

 「え? あぁ、うん。大丈夫」


 ――で、話を戻すがどうするのだ?


 「そうだった。もう必要なくなったから」


 ――何!? 我と契約すれば呪縛の効果が増幅するのだぞ。


 「呪縛を強められても……」


 ――そういう意味ではない。例えばその開眼点眼の場合、今なら何があるかしかわからないだろうが、もっと詳しくわかるようになる。


 「詳しくなるだけ? 解く事は出来ないの?」


 ――見えるのと解くのとは、別物だ。解きたいのならまた覚えるが良い。


 「な、シャンにまた呪縛を背負わせる気かよ」


 ――我と契約すれば、呪縛耐性を強める事も出来る。どうだ?


 「なぜか悪魔の囁きに聞こえるわ」


 ――戯け! そいつらと一緒にするな。奴らは一緒に飲み込もうとするだろうが、我は共存を望む。


 ”なんだかなぁ。言っている事は物騒なんだけど、小さいせいか一生懸命でかわいい”


 「うーん。僕のメリットは、耐性がつく事なの? 複数受けていてもなんともないし、それぞれ違うよね。呪縛の対価」


 ――黒髪の者は、確かに呪縛耐性も高いが、ずっと呪縛されていれば闇に飲み込まれる。それも自分では気づけない。その闇を中和してやろうと言っている。もちろん、困ったことがあったら手助けもしてやろう。


 「うーん。そこまで言うのならいいけど」


 ――よし、契約完了だ。


 スーッと、闇の精霊がシャンスの体の中に消えた。


 「うわぁ。僕の中に消えた」


 ――我は、闇から生まれた精霊。なので闇の中で生きる。ここからやっと動ける。スライム錬金を作ったかいがあった。


 「「「えー」」」


 ”騙された!”


 ――騙してなどおらん。今言ったまでだ。それにそこまでの呪縛のモノは作っていない。気にせずバンバン作るといいだろう。


 「あ、悪魔だわ」

 「精霊の皮を被った悪魔だ!」


 ”悪魔精霊と契約しちゃったよう”


 ――戯け! 誰が悪魔だ!


 ”僕の心を読まないで!”


 悪魔の様な闇の精霊とシャンスは契約してしまったのだった。

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