第22話 見えたモノ
シャンスが持つ核の皿は、あるかわからない程に透明になり、黒い液体がぽつんと浮かんでいる様に見える。
”透明度が凄い。くぼみの場所がわからないけど一応自分の方に向けていたから大丈夫かな”
<――開眼点眼<闇>
『解説:点眼した瞳に見破る力を授け、トラップや魔法、呪いの類を見破る事が出来るようになる。
呪縛:明るい場所では見る事が出来なくなる。』
”また呪縛。スライム錬金って呪縛系統の錬金なの? でも明るい場所では使えないだけか。ダンジョンでは使えるよね? じゃないと意味がない”
「凄い。黒いのが浮いて見える」
「錬金って凄いんだな」
二人は、液体よりそれを受け止め透明になった核に関心していた。
「うん。そうだね」
そう言うとシャンスは上を向く。そして、左手を目の上に持って行った。斜めになった皿からスーッと滑らかに黒い液体は滑って行く。
「あ、ちょっとま……て……」
慌てて止めるクルフルだが、ぽたんとシャンスの左目へと黒い液体は吸い込まれていった。
「うん? 何?」
シャンスは、上げた顔をクルフルに向ける。瞳は黒く染まっていたが、それが薄くなり元のオレンジ色の瞳に戻った。実際は、左目がかすかに暗いオレンジ色に変化しいるが、見た目ではわからない程度だ。
「いや……目、大丈夫か?」
「うん。痛くも痒くもないし、違和感もない。見え方も普通」
”平気そう。そういえば、呪いも見破るってあったけど……”
「ねえクルフル、ちょっと包帯をとって腕を見せてくれる?」
「え? なんで?」
「もしかしたら見破れるかも」
「そんな事もできるのか?」
「わかんないけど、物は試しに」
頷くとクルフルは、包帯をほどきシャンスの前に出した。そして三人でその左腕の痣を見つめる。
特に何も変化がなく、シャンスは小さく鑑定と呟いた。だがそれでも変化はない。
「うーん。何もわからないや」
「ダメか。いいさ。50レベルのスライムが居そうだし、核を手にれて呪いを解けば」
「うん。じゃ行こうか」
「目、大丈夫? 見えてるの?」
メレーフの問いに大丈夫と、シャンスは頷く。
「大丈夫だから。ただ効果があるかだよね」
「トラップが見えるといいな」
「そう思うとわくわくだね」
”呪縛は見破れなかった。強くて無理だったのか? 本当にトラップを見破れるのかな?”
今までは失敗した事がなく、効果もちゃんとあったので心配はしていなかったが、量が少なかったのでもしかしたら見破れないのかもしれないと不安になった。
”また戻ってくるようならもう一度作ろう。今度は何個か足して涙の量増やそう”
何となく捨て置くのももったいないような気がしたシャンスは、透明になった核を鞄にしまう。
こうして三人は、またトラップ迷路に挑む。
◇
「待って! 止まって!」
しばらく進んで角を曲がった時、シャンスは叫んだ。彼の眼には通路の先が陽炎の様に歪んで見えていた。左目だけを閉じればそれは消える。
”あれはなんだろう?”
《ワープトラップ》
「え……」
「どうした?」
「トラップだ。ワープトラップだって」
シャンスの言葉に二人は驚いて辺りを見渡した。
「その先の通路が陽炎の様に歪んで見えるんだ」
そういうとシャンスは歩き出す。
「ちょ、ちょっと待てよ。危ないって」
シャンスがピタッと止まる。
「この目の前にあるよ。たぶんここを通るとどかにワープするんじゃないかな?」
「え~うそ。じゃどうやって前に進むの?」
「気が付かないうちに、戻されていたってわけか。で、どうすればいいんだ?」
「え? どうすればいいんだろう?」
見破るだけじゃだめだと、言われて初めて気が付いたシャンス。
”どうしたらいいんだ? うん?”
ふと、右を見ると岩壁の一部も歪んでいた。
”通路? それとも扉?”
《隠された扉》
「扉だ! ここに扉がある!」
「え? すご~い。大発見じゃない。って、ここで終わり?」
「50階までなかったか」
残念そうな二人。ボスを倒してもスクロールがドロップしないからだ。
「と、とりあえず入ってみる?」
「そうだな」
三人はごくりと唾を飲み込む。
シャンスの手が扉があると思われる壁に振れると、スーッと壁が消えた。
「部屋が現れた!」
メレーフが歓喜の声を上げるも中は真っ暗闇。これでは中に入る事ができない。部屋の中に動くモノの気配がなく、三人はじーっと見つめ目を凝らす。
――まさか、その扉を開ける者がでるとはな。これまた随分と呪縛を纏った者が現れたな。クククッ。
ボスっぽい台詞だが、シャンス達は唖然としていた。
「めちゃくちゃ近くにいた! 毛もじゃのスライム!?」
片手に乗るほどかなり小さい。しかも暗い空間に黒い毛をしてそこにいたのだ。
――戯け! 我をスライムと一緒にするとは!
「精霊だわ」
「しかもでかい」
「え~! 精霊!?」
二人の言葉にシャンスが驚きの声を上げるも、うんうんと黒い精霊が頷きさらに驚くのだった。
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