第19話 驚きの連続で

 「それ、本気で言ってる?」


 俯いてシャンスが問うと、クルフルは手を離した。


 「ごめん。焦っていた。脅すつもりではなかったんだけど……」

 「……そっか。じゃちょっと来て」


 シャンスは、クルっと背を向けると初心者ダンジョンの建物へと入っていく。クルフルとメレーフは何だろうと顔を見合わせた。


 「初心者ダンジョンには、もうボスはいないぜ」

 「うん。知ってる。30階までしかなかった。行くのは違う場所」

 「え? ちょと……」


 シャンスがそういうと、魔法陣に乗り姿を消したので、慌てて二人も後を追う。

 兵士は、初心者じゃない三人が現れ、怪訝に見つめた。


 「一応言うが、ここから上級者ダンジョンに行く事はできないぞ」


 稀にそういう事を考える輩がいるのだ。


 「え? そういうつもりだったのか?」


 兵士の言葉にクルフルが驚いて聞いた。


 「違うよ」


 だが違うと言いながらも塔からでると、初心者ダンジョンとは反対の方向へと向かうシャンスに、二人は戸惑う。


 「……あのさ、僕も追われる身になったんだけど、それでも僕に頼る?」


 突然止まったと思ったらシャンスは、振り向きもせずに二人に聞いた。


 「終われる身って、いったい誰に」

 「シャンは偽名なんだ」


 そう言って振り向いたシャンスは、悲しげだった。


 「それを言うなら俺に協力したと知れたら、追われるところか殺されるかもしれないけど?」


 そうクルフルは返す。


 「私は、シャンが悪者に見えないけどなぁ」

 「ごめんな、巻き込んで」


 そうメレーフに謝ったのはクルフルだった。


 「何言ってるのよ。家族同然なんだからそんな事言わないの」

 「え? 兄妹じゃないの?」

 「従妹なんだ。俺の両親は死んじゃったみたいだけどな」

 「そ、そうなんだ」


 ”従妹だから似てるのか”


 「俺の方は、頼れるのは君しかいないからさ。メレーフが言ったように、シャンが悪者だとは思ってない。何か理由があるんだろう?」

 「うん。まあね。でも僕の正体がギルドにばれると危ういんだ」

 「「ギルド!?」」


 まさかの相手に二人は声を揃えて驚いた。


 「それでもいい?」

 「あははは。お前、大物だな。相手、ギルドかよ。協力するよ」

 「私も!」

 「ありがとう。じゃ案内するよ」


 二人は首を傾げる。


 「アジトかな?」


 ぼそっとメレーフがクルフルに耳打ちすると「かもな」と頷いた。


 「ここだ」


 しばらくしてついた場所は、ただの森の奥深く。

 スライムダンジョンの入り口は、地面で隠れて見えないので、二人はここに何があるのだと、辺りを見渡した。


 「えっと、ここに何が」

 「ダンジョン」

 「「え!」」


 またもや驚く二人は声を揃える。


 「地面にあるんだよね。しかもここ、スライムしかいないみたい」

 「何!? スライムしかいない? じゃそこスライム尽くしなのか」

 「うん。スライムだらけ。素材も核しか手に入らない」

 「……凄いな」


 シャンスが落ち葉をかき分けると、そこから明かりが漏れてきた。


 「本当にあるのね。よく見つけたわね」


 メレーフが、ジッと入り口を見つめ言う。


 「よっと」


 シャンスは、穴からダンジョンへ飛び降りた。店員が言った通り結構な高さがあったがなんともなかった。


 「お前……本当にめちゃくちゃだな。この高さから降りて怪我一つないのかよ」

 「蔦で降りるといいよ」

 「え……ちょっと怖いな」

 「大丈夫。もし落ちたら僕が受け止めるから」

 「………」

 「あいつ、天然なのか?」


 シャンスの言葉に、メレーフが顔を赤らめていた。


 「ほら真っ赤になってないで、先に行け」

 「な!」


 恐る恐る蔦につかまりメレーフが降りると、クルフルも降りる。その間にスライムが襲って来るも、シャンスは蹴りで倒していた。


 ”この靴便利だ。戦闘にも使える”


 「もしかしてここのボスを倒しに行くのか?」

 「うーん。初心者ダンジョンっぽいから30階までしかないかも」

 「は? じゃなぜここ?」

 「隠れる為? あとは錬金する為かな」

 「「錬金!?」」


 三度目の二人のハモリは、ダンジョンに響き渡った。


 「うん。スライムアルケミストなんだ、僕」

 「はあ……スライムアルケミスト? 聞いた事ないけど」

 「じゃ実践」


 そういうとシャンスは、リュックからノートを取り出す。


 「スライムの核レベル11を6個」


 右手に小さな核が現れ、二人は唖然とする。

 シャンスは、左手に持つノートにその核を塗っていく。二人には、黒い核が吸い込まれ消えていく様に見えていた。


 「この隣でいいかな」


 そうつぶやくシャンスは、魔法陣の横の床に手をついた。


 「転写」


 二人は、叫ぶ事も忘れシャンスの行為に見入っている。手を離せば、本当に隣と同じぐらいの魔法陣が出来上がっていた。


 「凄い……」

 「じゃ行こう」


 シャンスは、最初からあった魔法陣を踏むと消え去り、二人はハッと我に返る。


 「クルフル先にどうぞ」

 「え? いやメレーフが先に行けよ」

 「でも……」


 初めて見る大きさの魔法陣だったので、二人とも躊躇したのだ。


 「どうしたの?」

 「うわぁ」

 「きゃー」


 突然、さっき作った魔法陣から現れたシャンスに二人は驚いた。


 「あ、言ってなかったね。30階に繋がっている魔法陣だから安心して。今、向こうにもこっちにワープする魔法陣設置したから」


 平然と言うシャンスに二人は、ただただびっくりするだけだった。

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