第18話 切羽詰まって
シャンスが、ギルドの建物に入るとなんだか今度は騒がしい。サーチャーが多いのもあるが、ギルド員が慌てふためいている。
”今度は何があったんだろう?”
「――ダンジョンが開放される前に入ったバカが居て、死んでいたみたいだな」
「は? そんなバカがいるのか?」
「しかも初心者らしいぜ。手引きが落ちていたってよ」
そんな会話をしながらギルドの外に出て行くサーチャーに、シャンスは自分の事だとドキリとする。
”そっか、落とした手引き拾われたのか”
「あの、これ……」
カウンターに人がいなく、奥で何やら話している。
「もしかしてあの黒髪の坊主がシャンスっていう子だと言うのか?」
「回ってきた情報と一致する。ただドロップ確定だから生きているとは思えない」
「誰かが彼になりすましていると?」
「5階のボスは倒されていた。ツインレッドの二人の仲間?」
”え? 僕が仲間!?”
ギルド員達にすれば、ドロップ確定のスキルではモンスターを倒せない。倒せないならそのスキルがあっても武器などは手に入らないのだから生き残れないとなった。しかも彼だと思わせる人物が
”どうしよう。僕がシャンスだって言って、仲間じゃないと証明できるだろうか?”
シャンスは生きている。そう証明はステータスできる。だがツインレッドの二人の仲間ではないと、証明できないのだ。
”経緯を話したら納得してくれる?”
「ナッツを陥れる為にやったのか?」
”どうしよう。事が大きくなっている……”
「あの! ち、ちが……」
「あぁ君か。ちょっと待って今換金するから」
「え、はい……あの、今の話……」
「聞いていたのか? 誰にも言うなよ。確証はないからな。俺もあいつらには酷い目にあった。首にはならなかったが、減給になってな。ツインレッドも黒髪の少年も目立つだろうから見かけたら教えてくれ」
「………」
とても自分がその黒髪の少年ですとは言い出せなかった。
換金を終えたシャンスは、フラフラとギルドの建物を出る。
”これからどうしよう。ギルドにもツインレッドにも僕だと気づかれてはダメだなんて……。一番いいのは、ツインレッドの悪事を暴く事だけど。あの人が何をされたのかがわからないと、暴きようがないよね”
どうしようと思いながら宿に向かうもふと、カードを見せないといけないのを思い出す。
”もし宿に手が回ったら僕が来たとばれる”
シャンスは、
”こうなったら寝泊りは、スライムがいるダンジョンにしよう。錬金術で何か作ればなんとかなる。たぶん……”
「いたぁ! シャン!」
シャンスは、大きな声で名を呼ばれビクッと体を震わす。そう呼ぶのは二人しかいない。
”もっと違う名前にすればよかった。心臓に悪い!”
振り向けば、クルフルとメレーフの二人が走って向かってきていた。
「何かあった?」
「よかった。ちょっとお願いがあってさ」
「お願いって?」
クルフルが上級者ダンジョンに行くために並ぶ列を指さした。
「あのダンジョンに行きたい。付き合ってほしいんだ」
「は!?」
あまりのお願いにシャンスは、目をぱちくりとする。
クルフルは、シャンスが攻撃系ではない事を知っている。
「前金にこのリングやる。だから」
左手にはめていたリングを右手で掲げた。クルフルの左手には包帯巻かさっている。
”あの痣を隠しているのか”
「それを貰ったとしても無理だよ。悪いけど違う人を誘って」
「君じゃないと意味がないんだよ」
「え? どうして?」
「必ずアイテムをゲットしたいからさ」
シャンスはぎょっとした。
言わなかっただけで、ばれていたのだ。
「ボスに挑みたい」
「ボスって……もう少し強くならないとたどり着けもしないと思うけど」
中級者ダンジョンでさえ、危うかったのだから無理な話だった。
「それはわかっている。けど、これが見つかれば俺だけじゃなく家族も殺されるかもしれない」
クルフルは、左手の包帯を右手で握り俯いてそう言った。
”やっぱり痣に何かあるのか。でも無理だろうな。クルフルは、ボスから何のアイテムを手に入れたいのだろう”
「ねえ、何のアイテムが必要なの?」
「え?」
「ボスがドロップするアイテムが欲しいんだよね?」
「呪いを解くスクロール」
聞き取れないほど小さな声でクルフルは答える。
”呪いを解くスクロールか。それ僕も用意しておいた方がいいやつだ。ボスに挑む前に作れないか、まず確認するかな”
「わかった。それは僕が用意するよ。だから少しまっていて」
「え? 一人で挑むきなのか?」
「まさか!」
「だって君のスキルはドロップ……ふがふが」
「ちょっと!」
慌ててシャンスは、クルフルの口を手でふさいだ。ドロップ確定スキル=シャンスなのだからギルド員がいる傍で、大声で叫ばれては困るのだ。
口をふさいだ手をクルフルは掴み、自分の口から離す。
「取引と行こうか。知られたくないようだし」
「え……」
”どうしてそうなるんだぁ!”
クルフルも切羽詰まっていたのだった。
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