第17話 左腕に見えたモノ

 ここは14階、あと一つ階を降りなければ外に出られない。クルフルの言う通りで一人では無理だろう。


 ”焦り過ぎたかも。というか、強くなった気でいた”


 「あ、あのさ。またお願いしていい? 次の階でダンジョン出るよ」

 「いいけど。もしよかったら俺たちと一緒にやる?」

 「賛成! 魔法を使わずばっさばっさかっこいいよね」

 「え……」


 ”魔法を使わないのがかっこいい? 思った事もなかった”


 「私なんて、MP切れたら全く戦力にならないもの」

 「その代わりMP回復早いだろう」

 「スタミナも欲しかった。おかげで剣を振れないんだから」

 「うん? MP回復?」


 きょとんとしてシャンスが言うと、二人はマジかと驚いた顔で彼を見た。


 「サーチャーになった時に自分のステータス教えてもらっただろう? それにMP回復ってあったと思うけど。本当に何も知らずにやってきたの? 奇跡だね」

 「え? じゃスタミナとかも気にせずばっさばっさ? 凄すぎ」

 「いや、さっきヘロヘロになっていただろう。わかってないだけだと思うけど……。戻ったらギルドでステータス鑑定してもらって、今のステータス知った方がいいよ」

 「……うん。そうする」


 シャンスは、ズーンと落ち込んでいた。復讐すると思いながらもただがむしゃらではダメだったのだ。


 ”でも僕は、MP回復は気にするなって言われたような”


 「うーん。お金に余裕があるならワンパラメータチェック買ったらどうかな? こういうの」


 そう言ってクルフルが左手をシャンスに見せる。腕に碧いリングを付けていて、それに『101/235』と浮かび上がっていた。


 「これは俺のMP。一度使うと1消費して、5分間で1回復するんだ。休憩しつつ狩れば結構長い間、狩れる」

 「もしかして最大MPが235?」

 「そうだ」


 ”僕の半分もない。きっとレベルは僕より上だよね? ここに来てるぐらいなんだから”


 「MPじゃなくて、HPもスタミナのもある。錬金術のだから錬金屋に行った方が安く買えるかもな」

 「錬金術で作れるんだ!」


 驚いたように言うシャンスに、そうだと二人は頷く。


 ”そういえばノートに僕のMPが載っていた。あれをリングとかに出来れば確かに便利だ。僕の場合は何がいいんだろう? MPはノートで見れるからなぁ。作らなくてもいいよね”


 「シャンは、魔法を使ってないからMPよりHPとかスタミナがいいかもな。スタミナが減ると色んなパラメータの数値が下がるから」

 「そういえば、スタミナは言われたような……」

 「不思議な人ね。強いのに色々知らないなんて」

 「あははは……」


 ”デビューしたてなんて言えないな。さらっと教わっただけで、後は一緒に行く先輩サーチャーに教わりながら学べって言われたからな。結局あの二人からは、何も教わってないけど”


 「あっ……」

 「うん?」


 クルフルが、左腕を凝視しているので覗き込めば、さっきはなかった痣が浮かび上がっている。


 「大丈夫?」

 「え? あぁ。なんか火照ってるけど、大丈夫……」

 「クルフル……これもしかして、おばあちゃんが言っていた」

 「おばあちゃん?」

 「な、何でもない。悪いけど俺達、やっぱり今日は一つ下の階で出るわ」

 「うん。わかった。じゃ僕もそうする」


 ”なんだろう? あの痣”


 変な病気なのだろうかと気になるも隠したいようなので、聞けなかった。

 三人は、15階まで行くとすぐにダンジョンから出てギルドの前で別れ、クルフル達はギルドに寄らず去って行く。


 ”それにしてもまだ並んでいるよ”


 シャンスが、行列に目を奪われているうちに、二人の姿はもう見えなくなっていた。





 「「ただいま」」

 「おかえり。クルフル、メレーフ」


 メレーフの母親ヒルダが嬉しそうに挨拶を返す。彼女は、濃い紫色の髪だが瞳は赤い。


 「おばあちゃん、起きてる?」

 「えぇ。どうしたの?」


 クルフルが聞くと頷くも不安げだ。


 「……ちょっとね」


 おばあちゃんの部屋へと三人で向かう。ドアをノックすると、はいと元気な返事が返ってきた。

 彼女もヒルダと同じ濃い紫の髪、それと碧い瞳。金ではなかった。


 「おや、今日は早かったね」

 「うん」


 沈んだ声で頷くクルフルは、おばあちゃんがいるベッドの前で暗い顔だ。


 「どうした?」

 「これ……」


 少し震えた声でクルフルは言いながら左手を見せた。さっきよりくっきりと痣が浮かび上がっている。


 「こ、これは!」

 「やっぱり。ばあちゃんが言っていた痣ってこれだったんだね。これって何?」

 「……たぶん、呪いだ。それが見つかると殺される」

 「「「え!」」」


 何となく呪いかもとは思っていたが、見つかれば殺されると聞き三人は驚いた。


 「呪いなら解けるよね? 俺、探すよ。50階以上のボスから出るから」

 「しかしボスとて、必ずドロップしないのではなかったのかい」

 「それは大丈夫。当てがあるんだ」

 「待って、クルフル。今の私たちじゃ50レベルのボス倒せないわよ。それどころか、そこまでたどり着けるかどうか。ううん。それよりもボスを探さないといけないわ」


 そう。ボスは一度倒したらそれっきり。他のモンスターはダンジョン内で復活するようだが、ボスにはそれがない。今回発見されたダンジョンへ行くしかないと覚悟を決めるクルフルだった。

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