第16話 高をくくった結果

 ”本当にマップって置いてあるんだ”


 次の日、ギルドに寄ったシャンスは、ダンジョンマップをもらった。中級者ダンジョンまでは、無料でもらえるのだ。


 ”枝道のダンジョンにしようかな”


 地図があるとはいえ、ぐるぐると回って下の階へ降りのは大変なので、ある程度までは、すんなりと下の階に降りられる枝道にした。


 ”うん? なんかいつもり人が多いと思ったけど、この列は何?”


 ダンジョンへワープできる魔法陣の建物の前に来ると長蛇の列。


 ”何があったか知らないけど、これに並ぶの?”


 昨日までは並ぶほど人がいなかったのに、ギルド員の人が案内などをしている。


 「上級者ダンジョンへ行きたい方は列にお並び下さい。ただいま、五分ごとに出発になります」


 ”これ全部、上級者ダンジョンに行く人? あ、あのダンジョン解放になったのか”


 凄いと横目に見ながら中級者ダンジョンへと向かう。こっちの建物には、誰一人いない。


 「別に今日じゃなくても……あ、そっか。ボスか」


 5階のボスは残念ながらシャンスに倒され、宝箱はツインレッドに持っていかれてないが。


 ”こっちは、空いてそうだ”


 思った通り、人の姿はダンジョン内にはなかった。


 「それにしても見づらいな、この地図」


 なにせ30階まで書き込まれた地図だ。小さく描いても描き切れないので、階段とボスの部屋に行く道以外は省かれている。それでもダンジョン内で見るのには小さすぎた。


 ”これ、迷路のダンジョンじゃ役に立たないんじゃないか”


 モンスターを倒しつつ順調に下の階へと降りていく。

 経験値を稼ぐのが目的なので、必ず一回で倒せるレベル20以上離れた階まで一気に降りるつもりだった。

 20階以上降りなくてはいけないが、何とかなるだろうと高をくくっていたが、15階も行かないうちにピンチに陥る。


 蝙蝠のような飛行するモンスターが相手で、複数で飛んで攻撃を仕掛けてきた。ちょうど開けた場所で、上空を攻撃となると思ったより腕にくる。

 デスソードを持っている手もだるくなり、空振りすればよろける始末。


 ”やばい、このままじゃ体力が持たない。確かここ13階だっけ。戻るにしても進むにしても距離は同じぐらいか”


 「はぁはぁ。くそぉ!」


 シャンスは、焦っていた。シールドがあるとはいえ、そのシールドが切れればあっという間にやられるのは目に見えていた。


 「シャン! うしろ!」


 突然後ろから声が聞こえると同時に、自分の体が勝手にスーッと動いて驚く。さらにモンスターが目の前を通過する。驚きながらも、そのモンスターを攻撃して倒した。


 「電撃!」


 バチバチと聞こえると蝙蝠のようなモンスターが地面へと落下する。動けないようだ。それにシャンスはとどめを刺した。


 「はぁはぁ。クルフル!」

 「いやぁ、さすがだな。呼ぶと同時にかわすなんて」

 「大丈夫? さすがにへろへろそうだけど」


 ”助かった~!”


 嬉しさにシャンスは、二人に抱き着くところだ。


 「ピンチだったんだ。ありがとう。もう腕、だるだる」

 「だよな。ここ広すぎ。とりあえず、下の階行こうぜ」

 「うん。そうしよう」


 三人は、モンスターを倒しつつ階段まで一直線。階段の場所を知っているので迷う事はない。


 「はぁ。本当に助かった。ありがとう」


 下の階に降り、一息ついたシャンスは改めて二人にお礼を言った。


 「ここら辺少なくなったし、休憩しようぜ」

 「そうね。座りましょう」

 「ふう……」


 メレーフが腰を下ろし、その横にクルフルが座ったので更に隣にシャンスも座った。


 「すぐに僕だってわかったの?」

 「わかったわよ。見ればすぐにわかるわ」

 「もしかして髪!」


 そう聞くも軽くメレーフが、首を横に振る。


 「髪じゃないわ。その装備よ。緑一色じゃない」


 ”そうだった。僕の今の髪は黒じゃないんだった”


 シャンスの髪は、一本一本かすかに色が薄くなっていて、並べ替えれば、白から黒にキレイなグラデーションを作るだろう。だがその髪の毛は、ばらばらになっているので、遠くから見れば灰色の髪だ。


 「その装備、疾風セットだろう? なんていうか、使いこなせてない感じもあるけど……」


 その言葉にシャンスは苦笑いするしかない。

 言われた通りだからだ。


 ”名前を呼ばれた時、体が勝手に引っ張られた感じだった。あれが攻撃を回避する魔法の効果なのか”


 「レベル上げしたいんだろうけど、一人だと危ないと思うが……」

 「うん。まあ、そうなんだけど」

 「一つ聞いていい? もしかして攻撃魔法もスキルも持ってない?」

 「う……」


 クルフルの質問に否定も肯定できずにいると、やっぱりという顔つきになった。


 「別に何の魔法かなんて聞かないけど、意地張って一人で挑んでも死ぬだけだ」

 「意地とかじゃないんだけど……」

 「違うのか? ごめん」


 シャンスは、小さくため息をつく。

 意地を張っていたわけではないが、軽く見ていたその結果だった。

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