第15話 その突風に注意

 「何、このL字型の単純な通路……」


 シャンスは、階段を下りながらぶつぶつと呟いていた。

 一階は、ずっと直線だと思っていたら直角に曲がりずっと先に階段が見え、そこまで斬りながら少しずつ進むという、羽目になった。しかもある程度進むと、後ろからも攻撃を受けるのだ。

 壁を背に横歩きになり、挟まれて攻撃を受けながらやっぱり戻って違うダンジョンへ行けば良かったと後悔した。


 2階は、まだ1階よりは広かったが、風のぴゅーという音が聞こえ、前から風が流れ込んくる。


 ”兵士が言っていた外への穴かな? 気を付けよう”


 現れたモグラの様なモンスターが、今度は集団で襲って来た。しかもモンスターにしては小さいので、逆に攻撃を当てづらい。叩く感じに攻撃をする。


 ”3体相手にしているのに、攻撃を避けられる! 装備の効果凄いや”


 体が軽やかになったシャンスは、モグラたたきの様に楽しく倒していった。

 と、目の前に砂埃が舞う。


 「うわぁ。凄い風だ」


 左から突風が吹いていた。

 風はやむことはなく、弱くはなるが風の向こうに渡るのには骨が折れそうだ。


 「どうし……」

 「お~い。こっちだ」

 「うん?」


 風の吹く方向から声が聞こえたと思い振り向くと、岩の隙間から顔を出している少年がいた。

 とそこにまた凄い突風が吹く。


 「ぶっ」


 風が吹いて来る方向を向いていたシャンスの顔に、もろに舞い上がった砂がかかる。


 「っぺっぺ。口に入った」

 「何してるのよ。今のうちにこっち!」


 女性の呼ぶ声も聞こえた。

 とりあえず、素直にシャンスは岩陰へと向かい彼らの横に身を隠す。


 「もしかしてこうやって進むの?」

 「そうだよ」

 「ありがとう。助かった。僕は……シャン」


 お礼を言ってシャンスは、本当の名を伏せた。近くにあの二人が現れたのもあってばれない様に偽ったのだ。


 「俺は、クルフル。で、彼女がメレーフ」


 クルフルとメレーフは、二人とも珍しい金の瞳だ。クルフルが青っぽく、メレーフの瞳は赤っぽい。紫の髪も瞳と同じで、クルフルが青紫、メレーフが赤紫。


 ”兄妹だろうか?”


 「一人で来たんだな。まあ魔法攻撃ができれば一人でも余裕か。歳いくつ?」


 ”レベルじゃなくて年齢なんだ”


 「15」

 「「15!?」」


 言ってしまってからしまったぁと思うも遅い。


 「サーチャーになって一年も経ってないの? 凄いわね。レベルいくつ?」

 「な、内緒……」


 シャンスは、苦笑いをしつつ答えた。


 「え~」

 「メレーフ。詮索しない。俺たちもされたら嫌だろう?」

 「わかった」


 ”詮索されたくないんだ”


 三人が自己紹介をしている間も風は吹き抜ける。


 「それにしても凄い風だね」

 「もしかして、ダンジョンマップ持ってないの?」

 「ダンジョンマップ?」


 シャンスは、クルフルの言葉に首を傾げた。


 「マジか。レベルはあっても本当にまだ日が浅いみたいだな。よく今まで無事だったもんだ」

 「………」

 「もうクルフルったら。あのね、攻略されているダンジョンは、マップがあるんだよ。上級者ダンジョンに行けるようになるまでは、マップがあるダンジョンに行って経験を積んでお金を貯めるのがセオリーよ」

 「そうなんだ」

 「そんで、こういう情報も載ってるんだ。ここは風が来る方向に階段がある」


 クルフルは、風が吹いて来る方向を指さす。

 まさか風が吹く方向に向かうとは思わなかったシャンスは驚いた。


 ”風の向こう側に向かうと思っていた。出会ってよかった”


 「知らなかったら大変だった。ありがとう。ところでさ、5階でここ出ようと思うんだけど、5階まで一緒に行っていいかな?」


 シャンスの申し出に二人は快く頷く。


 「もちろんいいわよ」

 「いいぜ。俺たちもここは大変だから出ようって話していたんだ」


 三人は、五階までいやダンジョンを出るまで一緒にパーティーを組む事になった。

 クルフルは電撃、メレーフはレインボーアローを駆使し攻撃を行い、二人に比べてシャンスは普通に剣を振るうだけだ。

 凄い魔法を使うのだろうと思っていた二人は、剣だけで倒す事に驚いた。


 ”いいなぁ。攻撃魔法。そうだ。攻撃魔法のスクロールないか今度調べてみよう”


 「凄いわ。ロングソードでばっさり……」

 「怪力なんだな」


 二人の会話が聞こえたが、何も言えないシャンスは聞こえなかったふりをしてモンスターを倒していく。そして無事、ダンジョンから帰ってこれた。


 「ありがとう。助かったよ」


 サーチャーギルドの前で、お別れだ。


 「それにしても後半、ドロップ率よかったな」

 「そうね。持ちきれないぐらい」


 ”そうだった。パーティー組んだら二人もドロップ率上がるんだった”


 自分は自動で鞄の中なので、すっかり忘れていたのだ。


 「あ、じゃ僕は休むね」

 「また機会があったらね~」


 二人に手を振り、シャンスは宿へと向かう。


 ”やっぱりいったん布団でちゃんと寝よう”


 疲れたシャンスは、宿のベッドに身を預けるのだった。

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