第14話 変身

 黒い液体が、店員の目の前で軽く振られる。


 「これがスライム錬金で作ったMP回復薬ですか。真っ黒ですね……」

 「はい」


 体に害はありませんと言いたいが、飲んだ事がないので何も言えない。


 「では鑑定させていただきます」


 シャンスが店員の行動を見ていると、驚きの表情になり振り向いた。


 「な、何か」


 ”副作用あった?”


 「凄腕だったのですね! 15も回復するのに一切副作用がないなんて! これいくつありますか?」

 「え? あ……数えてないので」

 「そうですか。これ一本2万でいかがですか?」

 「2万!?」


 ”爪の倍じゃないか!”


 「安いですか? それじゃ……21,000Gで」

 「はい。そ、それで結構です。あと9本持ってきます」


 驚きの高値に、シャンスの声は震えていた。

 作りに戻り9本作って、防具屋に渡す。疾風の服の上下に疾風の靴と1万Gを手に入れた。それとおまけに、癒しのクッキーも貰いホクホクで防具屋を後にする。


 「錬金って凄くもうかるんだ……」


 宿に戻り疾風セットに着替えた。

 やわらかい緑色の上下の服に深緑の靴。見た目は凄く変わった。


 ”リュックも変えたいな”


 そう思いもう一度防具屋に行くと、レアモノコーナーにシャンスが作ったMP回復薬が売っていた。しかも5万Gもしていて、10万G以上お買い上げの方に限り3万Gになるらしい。


 ”凄い。買おうと思ったらこんなにするのか”


 目的のリュックコーナーに行くと緑色のリュックが売っていた。


 『カルイリュック深緑 3万G』


 ”軽くなる魔法がかかってるみたいだけど高いな。でも作ってきたもんね”


 万が一の為にMP回復薬を2本作って持ってきたのだ。


 「おや、先ほどはどうも。お似合いですよ」

 「ありがとうございます。色を合わせようかと思って」

 「3万Gになります。それは! ありがとうございます」


 MP回復薬1本とお金で支払いリュックも新調した。

 こうしてルンルンで、初心者ダンジョンへ向かう。あまりの変わりように、塔の兵士は、昨日場所を聞いた少年だとは気づかなかった。それどころかなぜ初心者ダンジョンへと首を傾げる。レベル50以上が着るような装備だったからだ。


 どれくらい下へ行けるかと、どんどん下へと潜っていく。だが30階で終わっていた。


 ”あれ? 階段がない”


 「マジ!?」


 がっくしと肩を落としワープしてダンジョンからでるシャンス。


 ”いったん爪とか換金してから中級者に行ってみようかな”


 ギルドに向かったシャンスは、昨日とは雰囲気が違うのに気が付いた。どんよりしているのだ。


 「これ、お願いします。何かあったんですか?」

 「あ、はい。ちょっとお待ちください」


 新しいリュックの中に古いリュックを入れ、その中に回収した爪を入れていたシャンスはリュックごと置くも、誰も爪を一つだけ持ってきた少年だとは気づかない。


 「はい。お金」

 「ありがとう」

 「……赤髪の二人はまだ街に居ましたか?」

 「赤髪? え? ツインレッド!?」


 シャンスは、まさかと思い大きな声を上げる。


 「はぁ……」


 大きなため息をつくギルド員に、もしやあの二人に何かされたのではと感づく。


 「もしかして、あの二人に何かされたのですか?」

 「……君には関係ないよ」

 「そ、そうですか」


 ”うーん。絶対になんかあったみたい。また初心者に被害がでたのかも。許せない!”


 ギルドを出たシャンスは、街中を探し回るも二人はいなかった。


 ”経験値稼ぎをしておかないとダメかも”


 そのまま中級者ダンジョンの魔法陣の建物へと向かう。そこも広さは初級者ダンジョンと同じだが、魔法陣の個数が違った。4つもあったのだ。

 床に一応ダンジョン名が書いてある。


 ”細き道、迷路、トラップ、枝道”


 ダンジョン名と言ってもダンジョンの特徴をつけてあるだけのようだった。


 ”細き道かな”


 迷わず細き道のダンジョンを選び、魔法陣に乗っかった。

 塔に着いたとたん、ビューっと風の音が凄い。


 「一人か。風に飛ばされないように気を付けれよ」

 「風?」

 「ここは、風の谷間というだけあって、突風が吹く。あとこのダンジョンは、他のダンジョンとは違い、壁に穴があって外に出られる。出られると言っても落ちるって事だけどな。モンスターから逃げるのに気を取られ、そこから落下して命を落とすサーチャーもいる」

 「そ、そうなんですか。情報ありがとうございます」


 そういうのもトラップの一つだと考えられていた。またそこから突風が入り、壁に体を打ち付け怪我をする者もいる。


塔の外に出れば、兵士が言ったように凄い風だ。立っていてはまともに歩く事もできず、目の前のダンジョンの入り口まで四つん這いになって進む。


 ”なんか情けないかっこうだよな”


 ダンジョンに入りホッとするなんてと、シャンスは立ち上がった。


 「せま……」


 立ち上がってダンジョンの通路を見て驚く。本当に狭かった。まず剣を大きく振れないだろう。両手を伸ばせば壁に触れる程の幅しかない。


 ”これ、複数で来たら仲間に攻撃しちゃいそうだな”


 息が合わなければ、なかなか大変だろう。

 デスソードを手に、進むと狼の様なモンスターが凄い速さで一直線に向かって来るのが見えた。何せ、道が一直線にまっすぐなのだ。モンスターが次々と前からやって来る。


 「何これ!!」


 魔法攻撃だと一直線に攻撃可能だ。効率を考えれば、剣などの戦いに不向きの場所だった。


 「えい! やぁ」


 またもやひたすら斬る事になり、しかも前へ少しずつしか進めない。


 ”もうきりがない”


 そう思いながらもすぐに戻る気にもなれず、せめて5階までと進むのだった。

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