第12話 噂の二人
「とーちゃーく!」
声が木霊して聞こえるぐらい大きな声でシャンスは、最後の一歩を登り切った。
階ごとにクルっと一周し、階段を上る。それを30階からやってきたのに元気だ。
”さて、片方の魔法陣を張り付けるかな”
攻撃してくるスライムをスパスパ切りながら設置する場所を探す。
”外に出る魔法陣の近くがいいよな”
「転写。よしっと」
ひと段落付き、ふうっと息をはく。
「何か眠くなってきた……」
安堵し疲れがどっと押し寄せてきた。それでも何とか一つ上の階にワープする魔法陣を描いた。
「ふぁぁ~。転写」
小さな魔法陣に転がりこむように乗っかると、睡魔に負け夢の中へと落ちていく。一階上にワープするのに成功し、森へ出る事ができた。すでに真夜中になって森は真っ暗闇。シャンスは、その中で心地よく眠りについたのだった――。
◇
タタタタッ。
ダンジョンに二人分の走る音が響き渡るも、モンスターは気づかない。ストールを羽織ったツインレッドが、我が物顔で走り抜けていく。
「やっぱり急ピッチで道を作っていたな。今日来て正解だ」
「ねえ、おにぃ。あの子どうなったかな? 出会ったりしないよね?」
「は? バカ言うな。いや出会うかもな。死体だけどな。がははは」
「うふふ。彼のお陰で色々上手く行きそうね。感謝だわ」
「お前が感謝なんて言葉を知っていたとはな」
「あら、お礼は大切よ。私は言葉しか返さないけどね。あ、あった扉!」
二人は、扉の前に立った。
「前回はお宝だけだったが、動きを止めるアイテムを
「あら、おにぃにしては丁寧な言葉遣いね」
「だってそうだろう? してねぇ約束をしたと思ってくれたんだからな」
「うふふ。あれも楽しかったわぇ」
楽し気に話をしながら二人は扉をあけ、目の前の場景に唖然とする。
「寝てるのか?」
「イビキはしてないようだけど……」
部屋でうつ伏せになっているボスに怪訝に思い、二人は静かに近づいた。
「こいつ息絶えていやがる」
「あらまあ。倒すだけ? 爪とかそのままじゃない」
「いや、ここ」
一つだけ剝がされた爪をマルムザは指さす。
「「………」」
二人はまさかと思うもあり得ないと顔を見合した。
「いいや。爪を取った奴は必ず売っているはずだ。ギルドで聞けばいい」
そう言ってマルムザは爪を剥がし始める。
「それもそうね。そうだ。上級者のボスって目玉も売れるんだっけ? それもお願いね」
「お前も手伝って」
「嫌よ。それ、おにぃの仕事でしょう」
「っち。これが一番面倒だな」
ぶつぶつ言いながらマルムザは処理していく。
そして、作業を終えた二人はワープしてダンジョンの部屋を出た。ボスの部屋には皮まで剥がされたボスが、文字通り丸裸で放り出されていたのだった。
ツインレッドの二人がギルドに入っていくと、二人にもわかるほど嫌な顔をされる。
「っち。ここもかよ」
マルムザが、カウンターに袋に入れたボスを倒した戦利品をドスンと置く。
「あなた達からは、買取をしません」
「はぁ? 俺たちもサーチャーカード持ってるんだけど」
名前の横に『非』と書かれたカードを堂々とマルムザは見せた。
「あなたは、人を欺く……」
「俺は初心者ダンジョンって言ったんだ。探し出せないのはあいつらのせいだろう?」
「違う場所へ連れて行ったのだろう? 結局どこの初心者ダンジョンにもいなかった」
「じゃどこに連れて行ったって言うんだ?」
「それは……」
「倍で買い取るよな?」
『――――――』
「……あ、はい。そのように」
「おい……」
成り行きを見ていたギルド員が驚いて、カウンターにいるギルド員の男に声を掛けるも、マルムザが睨みつける為近づけないでいた。
ギルド員は、元サーチャーだがほとんどが戦闘向きではない者達なので、マルムザの様な強者には勝てないのだ。
「はい」
「どうも。わかってくれてたようで。がははは」
「じゃぁ、ね~~」
リンナが、ひらひらと手を振る。
二人は機嫌よく去って行った。
「おい、何やってるんだよ」
「うわぁ!」
声を掛けられ、我に返ったギルド員は頭を抱え叫ぶ。自分が何をしたのかわかってはいるが、なぜそうしたのかわからない。しかも、倍も払ったのだ。
「だ、大丈夫ですか?」
受付嬢は、自分の方へ来なかった事に安堵しながら声を掛け、ある事に気が付いた。
「爪が一つ足りないわ」
「爪……あ!」
ギルド員は、最初に一つだけ爪を持ってきた
鑑定結果は、同じボスだった。しかも、どこのボスかはわからないのだ。その後、それが新しく発見された上級者ダンジョン5階のボスだと判明するのは少し後の事。
「がははは。たんまりだ」
「そういえば、聞きそびれたわね」
「うん? あぁ、爪の行方か? 別にいいって。あのギルド員首だなきっと」
「でも面倒ね。あのナッツって奴よね。手をまわしたのって」
「仕返し、いやお返ししないとな」
「そのお返しなら手伝うわよ。うふふ」
二人は注目される中、笑いながら街中を歩く。まあ笑わずともツインレッドの二人は、注目されている。成りたてのサーチャー以外なら二人には近づくなと知っているのだ。
馬に乗り二人が街から去って行くと、サーチャー達は安堵する。ただギルドでは、どうしたのものかと頭を抱えたままだった。
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