第12話 噂の二人

 「とーちゃーく!」


 声が木霊して聞こえるぐらい大きな声でシャンスは、最後の一歩を登り切った。

 階ごとにクルっと一周し、階段を上る。それを30階からやってきたのに元気だ。


 ”さて、片方の魔法陣を張り付けるかな”


 攻撃してくるスライムをスパスパ切りながら設置する場所を探す。


 ”外に出る魔法陣の近くがいいよな”


 「転写。よしっと」


 ひと段落付き、ふうっと息をはく。


 「何か眠くなってきた……」


 安堵し疲れがどっと押し寄せてきた。それでも何とか一つ上の階にワープする魔法陣を描いた。


 「ふぁぁ~。転写」


 小さな魔法陣に転がりこむように乗っかると、睡魔に負け夢の中へと落ちていく。一階上にワープするのに成功し、森へ出る事ができた。すでに真夜中になって森は真っ暗闇。シャンスは、その中で心地よく眠りについたのだった――。





 タタタタッ。

 ダンジョンに二人分の走る音が響き渡るも、モンスターは気づかない。ストールを羽織ったツインレッドが、我が物顔で走り抜けていく。


 「やっぱり急ピッチで道を作っていたな。今日来て正解だ」

 「ねえ、おにぃ。あの子どうなったかな? 出会ったりしないよね?」

 「は? バカ言うな。いや出会うかもな。死体だけどな。がははは」

 「うふふ。彼のお陰で色々上手く行きそうね。感謝だわ」

 「お前が感謝なんて言葉を知っていたとはな」

 「あら、お礼は大切よ。私は言葉しか返さないけどね。あ、あった扉!」


 二人は、扉の前に立った。


 「前回はお宝だけだったが、動きを止めるアイテムを頂いた・・・からな」

 「あら、おにぃにしては丁寧な言葉遣いね」

 「だってそうだろう? してねぇ約束をしたと思ってくれたんだからな」

 「うふふ。あれも楽しかったわぇ」


 楽し気に話をしながら二人は扉をあけ、目の前の場景に唖然とする。


 「寝てるのか?」

 「イビキはしてないようだけど……」


 部屋でうつ伏せになっているボスに怪訝に思い、二人は静かに近づいた。


 「こいつ息絶えていやがる」

 「あらまあ。倒すだけ? 爪とかそのままじゃない」

 「いや、ここ」


 一つだけ剝がされた爪をマルムザは指さす。


 「「………」」


 二人はまさかと思うもあり得ないと顔を見合した。


 「いいや。爪を取った奴は必ず売っているはずだ。ギルドで聞けばいい」


 そう言ってマルムザは爪を剥がし始める。


 「それもそうね。そうだ。上級者のボスって目玉も売れるんだっけ? それもお願いね」

 「お前も手伝って」

 「嫌よ。それ、おにぃの仕事でしょう」

 「っち。これが一番面倒だな」


 ぶつぶつ言いながらマルムザは処理していく。

 そして、作業を終えた二人はワープしてダンジョンの部屋を出た。ボスの部屋には皮まで剥がされたボスが、文字通り丸裸で放り出されていたのだった。


 ツインレッドの二人がギルドに入っていくと、二人にもわかるほど嫌な顔をされる。


 「っち。ここもかよ」


 マルムザが、カウンターに袋に入れたボスを倒した戦利品をドスンと置く。


 「あなた達からは、買取をしません」

 「はぁ? 俺たちもサーチャーカード持ってるんだけど」


 名前の横に『非』と書かれたカードを堂々とマルムザは見せた。


 「あなたは、人を欺く……」

 「俺は初心者ダンジョンって言ったんだ。探し出せないのはあいつらのせいだろう?」

 「違う場所へ連れて行ったのだろう? 結局どこの初心者ダンジョンにもいなかった」

 「じゃどこに連れて行ったって言うんだ?」

 「それは……」

 「倍で買い取るよな?」

 『――――――』

 「……あ、はい。そのように」

 「おい……」


 成り行きを見ていたギルド員が驚いて、カウンターにいるギルド員の男に声を掛けるも、マルムザが睨みつける為近づけないでいた。

 ギルド員は、元サーチャーだがほとんどが戦闘向きではない者達なので、マルムザの様な強者には勝てないのだ。


 「はい」

 「どうも。わかってくれてたようで。がははは」

 「じゃぁ、ね~~」


 リンナが、ひらひらと手を振る。

 二人は機嫌よく去って行った。


 「おい、何やってるんだよ」

 「うわぁ!」


 声を掛けられ、我に返ったギルド員は頭を抱え叫ぶ。自分が何をしたのかわかってはいるが、なぜそうしたのかわからない。しかも、倍も払ったのだ。


 「だ、大丈夫ですか?」


 受付嬢は、自分の方へ来なかった事に安堵しながら声を掛け、ある事に気が付いた。


 「爪が一つ足りないわ」

 「爪……あ!」


 ギルド員は、最初に一つだけ爪を持ってきた少年シャンスを思い出す。

 鑑定結果は、同じボスだった。しかも、どこのボスかはわからないのだ。その後、それが新しく発見された上級者ダンジョン5階のボスだと判明するのは少し後の事。


 「がははは。たんまりだ」

 「そういえば、聞きそびれたわね」

 「うん? あぁ、爪の行方か? 別にいいって。あのギルド員首だなきっと」

 「でも面倒ね。あのナッツって奴よね。手をまわしたのって」

 「仕返し、いやお返ししないとな」

 「そのお返しなら手伝うわよ。うふふ」


 二人は注目される中、笑いながら街中を歩く。まあ笑わずともツインレッドの二人は、注目されている。成りたてのサーチャー以外なら二人には近づくなと知っているのだ。

 馬に乗り二人が街から去って行くと、サーチャー達は安堵する。ただギルドでは、どうしたのものかと頭を抱えたままだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る