第8話 扉よ扉

 「もう一回行くかな」


 サーチャーギルドを出たシャンスは、ダンジョンへもう一度行くことにした。


 ”今度は、15階まで行ってみよう。あれ? さっきの兵士いないや。休憩中? まあいいか”


 シャンスは、ダンジョンへ向かって歩き出す。その後少しして、兵士がスッキリした顔で持ち場に戻って来た。


 「いい天気。にしても初心者ダンジョンに行く人って少ないんだな」


 大抵の者はストールを返却後、パーティーを組んで中級者ダンジョンに挑む。シャンスの様に一人で挑むなら手引き通りだろうが、20レベル過ぎたら中級者ダンジョンへ行ってしまうので、必然的に初級者ダンジョンにサーチャーがいないのだ。


 「あれ? 変だなぁ。看板も道も現れない」


 さっきは10分も歩けば見えた看板も道もない。


 「あ! 僕、逆に来ちゃった!」


 倍も進んでから気が付き塔へ振り返る。


 「はぁ……僕、こんなに方向音痴だったっけ?」


 塔から西へと進んでしまっていた。


 ガササ。


 「!」


 森の草が音を立て、シャンスはビクッと体を震わし振り向くが何もいない。


 「へ、蛇とかかな?」


 ぴょーん。


 「はう」


 シャンスは何かに突き飛ばされ、しりもちをついた。


 「あ、あれは何? 水のモンスターなの?」


 透き通った体に手足はなく、まるでビニール袋に水を入れたような物体がシャンス目掛けて突進してきたのだ。


 「ちょ、ちょっと待って!」


 またもや攻撃しようと、突進してくる相手に待てと言ったところで待つわけもない。

 シャンスは、慌ててデスソードを手にし切りつけた。

 斬った感触はあったのに、相手は水の様になり消え去る。


 「もしかして今のモンスター? なんで?」


 鞄を覗けば『スライムの核レベル1』が一つ増えていた。


 ”あれがスライム? あんなに透明なの? しかも切ったら水の様になってしまうなんて……。いやそれよりここにモンスターが居るって事は、ダンジョンがある!?”


 向かおうとしていたダンジョンとは別にあるかもしれないと、森の中へと入る。薄暗い森は不気味だ。


 ”あのモンスターはさっきのダンジョンにはいなかったから、ダンジョンは絶対あるはず”


 森を探しながら歩いていると、スライムと出くわす。それを倒しつつ探す事、1時間。やっとダンジョンの入り口を見つけた。

 ダンジョンの入り口は、横穴ではなく地面の様だ。そこからぴょーんとスライムが出てきた瞬間をシャンスは見た。


 「ここからだよな」


 蔦や木の根があって穴があるのがわからないが、覗けば薄暗いが歩けるほど明るいのだからダンジョンなのは間違いない。

 階段があるわけではないので、垂れ下がっていた蔦を使ってダンジョンに降りた。そして、ダンジョンの中を見て驚く。見えるのはスライムだけだ。


 「うわぁ、スライムだらけ……確かスライムって錬金術の材料に多く使われるって聞いたけど。うわぁ。危ない」


 うじゃうじゃといるスライムがびかかって来る為、ひたすら斬る作業になった。


 ”とりあえず、階段! 下の階へ急ごう!”


 強くはないが、初級者ダンジョンの様に区切れがない場所だった為、シャンスがいるとわかると次々に攻撃をしてくるのだ。きりがない。


 「はあ、はあ、あった」


 階段を駆け下りると、驚く事にまたスライムだらけだった。


 「はぁ? またスライム?」


 近くの初級者ダンジョンでも上級者ダンジョンでも階が違えばモンスターも変わった。何種類もいる階もあったのにと思うも、階段を探しダンジョンを駆け巡る。


 ”いったん外へ出よう”


 シャンスは、蔦で登って地上に出るだけの腕力がなかった。


 はぁはぁ。


 「やっと5階。なんなのこのダンジョン。またスライムだらけなんだけど。でも多分初級者ダンジョンだよね。さっきと同じ作りだし」


 だからこそ厄介で、四方八方から攻撃を受けるのだ。


 「扉~! 扉どこ!?」


 答えてくれるわけもないが、そう叫びながら走り扉を探した。だが一周したが扉が見当たらない。この階には、階段しかなかった。


 ”数え間違えたかな?”


 シャンスは、まだ4階だったかと一つ下の階へ降りた。もちろんそこもスライムだらけだ。


 「はぁ。またスライムだよ」


 愚痴をこぼしながらも扉を探す。


 「ない! な~い!」


 シャンスは泣きたい気分になった。

 ここが5階未満という事はないのだから5階には扉がない事になる。


 ”10階にしかないの?”


 5階ごとかと思っていたが、初心者用は10階ごとなのかとシャンスは、10階を目指し走り出した。

 さっきの初心者用ダンジョンでは、気にも留めなかったので5階に扉があったかなど確認しておらず、あったかどうか定かではない。


 「つ、疲れた……」


 壁に左手をつき息を整え辺りを見渡すと、ずっと見てきた風景だ。これがずっと続くとなると、自分が今何階にいるかわからなくなるだろう。


 ”ちゃんと数えながらきたから大丈夫。一つ上にも扉がなかったからここが10階のはず”


 そう思って壁伝いに見て周るも扉がなかった!


 「もしかしてこのダンジョンってボスいないの?」


 扉の向こう側には、ボスがいて宝箱がある。その奥にワープする魔法陣があるのだ。つまりボスの部屋がなければ、魔法陣もない。


 「え~~!!」


 もしそうならば、1階まで戻り蔦を登らないといけないのだった。

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