第7話 悩みどころ
”うーん。本当に買い取りしてる……”
次の日の朝すぐにギルドに来たシャンスは、壁に貼られていた依頼書を見ていた。昨日、何でも屋の店員がキバや爪も普通に買い取りしているような事を言っていたからだ。
”うん? まてよ。って事は、ボスの爪を全部剥いでくれば、すごい金額になったんじゃないか? あ~~!!!!”
爪を全部剥がないで置いてきたが、勿体ない行為だと気がつきがっくしと肩を落とす。キバや爪を持ち帰るのは、倒した証でもあるが、売れるからだった。
”ここにあるやつ以外でも買い取ってくれるよね? 昨日買い取ってくれたんだから”
「あの~。あそこに貼ってあるもの以外でも買い取りしてくれますよね?」
シャンスは、疑問に思ったのでカウンターの受付嬢に聞いた。
「はい。買い取れるものは随時買取をしております。あそこにあるのは、依頼があったものです。稀に、ドロップアイテムもあるんですよ。手に入れた後に、依頼用紙があれば一緒にお持ちになっても大丈夫です。その金額でお支払いします」
「ありがとう」
「お気をつけて行ってらっしゃい」
”選んで狩るより狩れるのを狩って、アイテムを売った方がいいかな?”
シャンスは、まずは初心者ダンジョンへ行き戦闘に慣れる事にして、ワープがある魔法陣の建物へ向かう。
建物は、ダンジョンのランクごとに分かれていたが、扉などはなく空いた壁の穴を通って中に入った。
建物の中には、ぽつんと一つ魔法陣があるだけだ。
シャンスは、辺りを見渡す。本当に魔法陣しかなかった。
「何となく場所の無駄使いの様な……」
そう言いつつ魔法陣へと足を踏み入れワープする。着いた場所には、兵士がいた。
「お、ご苦労さん」
「あの、僕ここのダンジョン初めてなんだけど、どっち?」
「右手が東側で、ダンジョンがある。頑張れよ」
「ありがとうございます」
お礼を言って言われた通り暫く歩くと、森の中に道が続いている。
”やっぱりダンジョンまでの道はあるんだ”
看板もあり、『初心者ダンジョン』と書かれていた。看板の案内通り道なりに進めばダンジョンの入り口に到着だ。一本道なので迷う事もない。
”昨日のダンジョンも道を作ってから解放なのかな? だったらその前にボスの部屋に行って爪を剥いできたいなぁ”
そう思うも、倒しながら進む気になれない。レベル差があるので攻撃もかわせるかわからない上に、ダメージもどれくらいかもわからないからだ。シールドがあるとはいえ、下手したら二階に降りる前に死ぬかもしれない。
”とりあえず、お金を貯めて装備を買おう”
ダンジョンに入ると、人の声が聞こえる。
”おぉ、人がいる!”
昨日行ったダンジョンは、解放前だったので誰もいなかった。なんとなくシャンスは安心する。
デスソードを手に進むと、蛇型のモンスターが出てきた。普通の蛇ではないのは、大きさで分かるほど蛇にしては大きい。
モンスターは、大きな口を開け攻撃してきた。
「うわぁ!」
慌ててよけて、デスソードで斬りつける。モンスターはあっけなく倒れた。
”そうだった。最初は弱いんだっけ。嫌な感触。それに血が……”
モンスターを切った事により血がソードの刃に付着した。
”汚れは、帰ったらきれいに拭こう”
シャンスは結局、キバも取らずにモンスターを切りながら奥へと進んでいった。
◇
一人で10階まで降りる頃には、鞄の中に回復薬(微小)が100個以上になっていて、ここまでは3時間ほどしかかかっていない。
”結構狭かったな”
どちらかというと区切られていない広い空間で、階段もすぐに見つかりサクサクと下に降りれたのだ。
サー。
”うん? 水の音が聞こえる?”
驚いて辺りを見渡すと、壁から水が流れ出ていた。地面には水が溜まるように、石が積まれている。その溜まった水を覗き込んだ。
「意外にキレイだ」
「飲めないわよ、その水」
驚いて振り向けば、シャンスと同じ年頃の男女が三人で立っていた。声を掛けてきたのは、そのうちの一人で少女だ。
「見ない顔だな。今日、デビュー?」
「そんなわけないだろう? 一人じゃん」
「あなた、黒髪なの?」
シャンスはドキリとする。少女の言葉に、仲間の二人の少年もシャンスの髪を見た。
「いや、ここ薄暗いからそう見えるだけで、黒ではないよ」
”忘れていたけど、髪の色も何とかしないと目立つかも”
黒髪の者は少ない。こっそりと強くなって叩きのめしに行く予定なのだから染めないとと気が付いた。
「じゃ、そういう事で!」
シャンスは、デスソードを水につけ洗い振って水気を取ると走ってその場を去り、三人はその行動にあっけとられる。
「なんだあれ……」
「変なやつ」
シャンスは、走りながら扉を探した。ボスの部屋だ。初心者用とは言え存在しているはず。もちろん、ボスは倒され宝箱もない。探しているのは、外へ出る為だ。
「あった!」
扉を開けると、見えるところに魔法陣はあった。
シャンスは、ワープすると森の一本道を進み護りの塔を目指し歩く。
街に戻ったシャンスは、壁に貼ってあった依頼書を一枚手に取った。
「回復薬小全部」
右手には、小さなビンが三つ現れる。
ドロップしたアイテムには、回復薬(微小)の他に回復薬(小)もあったのだ。依頼書の中に回復薬(小)の依頼があったのを覚えていたシャンスは、お金と交換する事にした。
「はい。回復薬」
「あら? 三つもドロップしたんですか?」
受付嬢に驚かれ、シャンスも驚く。
ドロップ事態多くなく、そのなかで回復薬(小)は更に少ない。もちろんどのランクのダンジョンでもドロップするが、初心者では微小、中級者・上級者では中が多い。
3時間ほどで戻って来たどう見ても初心者のサーチャーが持ってきたので驚いたのだ。
「あはは。運がいいみたい」
「よかったですね。はい。自分用は大丈夫ですか?」
「え? はい。無理しないので大丈夫です」
本当は、微小だが100個以上あるとは言えない。そして、ドロップ確定スキルだというのも出来れば明かしたくなかった。かなり珍しいと言われたからだ。
ツインレッドの耳に入れば、生きていると知れる。口封じに来るかもしれない。
”今はまだ勝てないだろうから。それにしても、髪どうしようかな”
髪色も特徴の一つなので悩みどころだった。
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