第3話 追いかけられて

 シャンスは、恐る恐るダンジョンを歩き彷徨っていた。


 ”はぁ。参った。全然道がわからない。やっぱりここって初心者ダンジョンじゃないよね?”


 シャンスは、一番最初は初心者ダンジョンに行くものだと思っていたので、始め連れていかれたのは初級者ダンジョンだと思っていたが、数階降りて違う事に気が付いた。

 何せダンジョンに入るのが初めてだし、二人はそれなりにサクサクと倒していたからだ。だが、マルムザが『50レベル以上が集団で来ると面倒だな』と言ったのを聞いて気が付いた。

 帰りたいと言うと、マルムザが怒りだしたのだ。


 「そうだ。何か手がかりないかな?」


 ふとサーチャーの手引きの存在を思い出し、リュックから出してシャンスはそれに目を通す。


 レベルの目安

 〇初心者ダンジョン:レベル1~

 〇中級者ダンジョン:レベル35~

 〇上級者ダンジョン:60~



 モンスターは、初級は1レベル、中級は25レベルくらいからのモンスターがいます。下の階に行くほど基本、強くなっていきます。

 中級者ダンジョン以上の場合は、自分より10レベルぐらい低いモンスターを相手にすると、ほぼ怪我無く狩る事ができるでしょう。

 上級は、50レベル以上のモンスターしかいません。自分のレベルにあったダンジョンに挑みましょう。


 ダンジョン攻略の目安を見てシャンスは、震え上がった。


 ”も、もしかしてここって中級者じゃなくて上級者って事ないよね?”


 シャンスは、その考えが正しいか、戻って調べる事にした。死んだモンスターをサーチして、レベルを調べられるかもしれないと思ったからだ。


 ”確かこっち? やばい。完全に迷った”


 引き返す事など考えていなかったシャンスは、もちろん目印など付けていない。なので、デスソードを手に入れた場所まで戻れなかった。


 ”もうどっちに進んでいいかわからなくなった……”


 せめて何か策が書いていないかと、もう一度サーチャーの手引きに目を落とした時だった。

 ドシンドシンと音が聞こえ振り向けば、モンスターが数匹向かってきている。


 「ぎゃー!」


 慌てて走り出す。

 走りながら左手に作った輪から覗き、赤色が出来るだけ少ない方向へと逃げた。


 ”どうしよう! 数が……”


 逃げているうちに追って来るモンスターの数が増えていたのだ。息も上がり限界に近い。


 ”死にたくない”


 サーチャーが、死と隣り合わせの職業だとは知っている。だがシャンスは、まだ何もしていないのだ。そして、ここで死んでも誰にも発見してもらえない気がした。


 ”なんでこんな目に。あ! 扉! あそこに逃げよう!”


 モンスターでは扉は開けられないだろうと思い、扉の向こう側へ逃げ込んだ。


 「はぁ、はぁ……。助かった」


 扉にもたれかかり、シャンスは安堵する。


 ”うん? この扉、ずいぶんやわらかい”


 振り向いてよく見れば、赤い革張り扉だった。


 「何これ、ずいぶんゴージャスな扉なんだけど!」


 何となく嫌な予感がしてシャンスは部屋に振り向く。

 さっきまで逃げ回っていたダンジョンのごつごつした岩とは違い、ちゃんとした部屋だったのだ。そして、目の前には追いかけて来ていたモンスターの倍はあるモンスターがいて、こっちをぎろりと見た。


 「ひぃ」


 シャンスには、扉の外に逃げると言う選択肢など頭に浮かばない。出たとしても、まだ追って来たモンスターがいるかもしれないので、どちらにしてもピンチなのには違いないのだった。


 モンスターの振り上げた手が、振り下ろされる!

 鋭い爪が迫って来るのがゆっくりに感じられた。その腕につんとデスソードを刺せば助かるかもしれないという事など考えにも及ばないシャンスは、デスソードを盾にするように前面に構え、目を瞑る。


 そのデスソードに、モンスターの強烈な攻撃が撃ち込まれ、初めて受ける凄い衝撃に、すぐ後ろのゴージャスな扉に吹き飛ばされた。

 その衝撃にも扉は壊れる事はなく、シャンスが構えていたデスソードは、カランと音を立てて床に落下すると同時に、モンスターのドスンという大きな音と振動が響き渡る。


 ”あぁ、そうだった。僕でも倒せるんだった”


 「げっほ……」


 シャンスもその場に崩れ落ち倒れた。

 うっすらと開けている目に、確実に倒した証拠にドロップアイテムが、モンスターの横に見えた。

 何やらビンの様な物から装備品まであり、一つではない。


 ”そういえば、ボス部屋というのがあるんだっけ”


 なぜかボスがいる部屋が存在し、そこは部屋というだけあって見た目、ダンジョンだとは思えない場所だった。そこにはお宝が眠ると言われていて、サーチャーが、ダンジョンに挑むもう一つの目的だ。


 ”ここまでたどり着いたのに……”


 シャンスがそう思ったのは、宝箱が手に入ると言う事ではなく、ここに出口があるのを知っているからだった。あとちょっとで外に出られたのにと、シャンスは涙を零す。悔し涙だった。

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