第2話 つんとぶつかって

 ダンジョンで一人ブルブル震えながら途方に暮れるシャンス。


 「どうしたらいいんだろう……」


 とりあえず、マルムザが蹴飛ばしたロングソードを拾う。

 二人は、奥へと向かって行ったのはシャンスでもわかっていた。だが上級者ダンジョンは入り組んでいて、彼らと反対側に向かったとしても出られるかわからない。しかも五階に降りていたのだ。まずは、上へあがる階段を探さないといけない。


 「ギルドから紹介された二人だったのに」


 ダンジョンに挑むのに言われている事があった。まずは、先輩サーチャーと一緒に挑む事。ギルドから紹介されたサーチャーなら安心と聞いていた。

 そして、シャンスの場合、戦闘向けのスキルではないので装備が整うまでは、他のサーチャーと行動するようにと。


 サーチャーの行動は、自己責任。ダンジョン内にいるモンスターが外に出ない為にもモンスター狩りをしてくれるサーチャーには、無料の休憩場所が用意されていた。ただし、サーチャーカードに『良』と記された者だけだ。


 『普』と書かれた者は、あまりサーチャーとして行動していない者とされ、使用できるが無料ではなく料金がかかる。

 そして、『非』とされているサーチャーは、その施設は利用できない。サーチャーの資格を持っているが活動していないとみなされる者、またはサーチャーとしてダンジョンに挑んではいるが、行動が好ましくない者がこれに当てはまる。


 マルムザは、『普』だった。ちょっと休憩していたらランクを落とされたと言っていたのだ。レベルは、二人とも80を超えていてベテランだったので、シャンスもまさかこんな目に遭うとは思ってもみなかった。


 「僕、初めてのダンジョンで死ぬのかな?」


 シャンスの装備は、装備力なんてないに等しいサーチャートップとズボンにナイフとリュック。それだけだ。リュックには、サーチャーの手引きと一応ちょっとだけ食料は入っている。万が一の為に持ち歩く事になっていて、最初に支給された干し肉と水だ。


 グルル……。


 声がすると振り向けば、さっきマルムザが倒したクマの様なモンスターが、シャンスに向かって突進してくる!


 「み、見つかった」


 ロングソードを構えるもガタガタと震え、切りかかるところか逃げる事もできない。足が恐怖で動かないのだ。


 ”どうしよう”


 シャンスは、ロングソードを突き出したまま目を瞑り、死を覚悟した。

 ドシンドシンとモンスターが向かって来るのが、振動と音で分かりさらに恐怖をかき立てる。


 襲い掛かろうとしたモンスターが、つんとロングソードの先に触れた。ピタッと一瞬止まると、そのままドシンと大きな音を立てて倒れ、その音に驚いてシャンスは目を開ける。


 シャンスは、目の前の状況に頭がついて行かない。なぜかピクリとも動かず、しばらくじーっと見つめるも動く気配がないのだ。


 「え? 死んだの? なんで?」


 モンスターの死体の横に、死んだ証としてドロップアイテムが落ちていた。黒いグローブだったので気づかなかったが、気づいてシャンスは安堵する。


 ”なんかよくわからないけど助かった”


 戦利品であるドロップした黒いグローブを拾った。それを躊躇なくつける。

 今は、少しでも防御力を上げたいのだ。上級者ダンジョンなので意味がないかもしれないが。


 ”皮のグローブっぽな。ロングソードに防御力がないに等しいグローブか……。ドロップ確定でも使えない品物じゃ、生きて帰れないよ。せめてどんな物がわかればなぁ”


 そう思った時、ロングソードを握る右手に文字が浮かび上がった。正確にはロングソードにだ。


 <――デスソード

 『解説:見た目はロングソードだが、向かって来る相手にソードが触れると確率により死に至りしめる。所有者と相手のレベル差により確率が変動する。1レベル差5%』


 「え? これ、ロングソードじゃないの? って、これってもしかしてグローブの力で見えたの?」


 一人大きな声で驚きの声を上げ、一人で興奮するシャンス。


 ”えーと。もしかして、グローブで触れたモノを鑑定するのかな?”


 左手で右手のグローブに触れる。


 「このグローブは何?」


 じーっと文字が現れるのを待つも表示されない。


 「あれ? じゃこれは? どんな機能があるの?」


 左手にソードを持ち替え、右手で左手のグローブに触れてみた。


 <――サーチグローブ

 『解説:右手で触れたモノに対しサーチし解読する。左手の人差し指と親指で作った輪から覗くと、見える範囲をサーチする。赤いシルエットは自分よりレベルが上、緑はレベル差1以内、青は自分よりレベルが低い』


 「ビンゴ! これで生存率があがった!」


 さっそく、左手で輪を作り覗くと、赤いモンスターだらけだ。ダンジョン内はなぜか薄っすらと明るい。しかし目視だと奥が見えないが、この輪から見ると遠くのモンスターも色がついて見えた。


 「あ、あたり前だけど真っ赤だ」


 興奮が冷め、シャンスは冷静になった。


 ”とりあえず、モンスターが少ない場所を行こう”


 右手にデスソードを握りしめ、一人頷くとシャンスはゆっくりと歩み始めた。

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