呪縛アイテムも何のその。ドロップは宝の山でした
すみ 小桜
第1話 ツインレッドの二人
「クッソ。ガラクタばかりじゃないか!」
鎖かたびらつけた大柄の男が、地面に落ちていた剣を蹴ると、回転しながら剣は端まで飛んで行った。
「マジで嘘じゃないか?」
「違います。本当にあります!」
大柄な男はギロリと少年を睨みつける。
大きな銀のストールを被った少年はオレンジの瞳を潤ませ涙目だ。
「もうよしなさいよ。ねえ」
赤い髪のおかっぱの美女が少年の頭をストールの上から撫でる。
彼らは、ダンジョンサーチャーといって、お宝が眠ると言われている
剣を蹴飛ばしたのは、リーダーのマルムザ。短気ですぐに手が出る。そして、妹のリンナは、美人だがいたずら好き。二人は、赤髪と赤い瞳でツインレッドと呼ばれている。
今回、二人は初めてダンジョンに挑むというシャンスを連れて上級ダンジョンに挑んでいた。
15歳になると神託のダンジョンに入りスキルか魔法を手に出来れば、ダンジョンサーチャーとしてダンジョンへ挑む権利が与えられる。
シャンスは、『ドロップ確定』というスキルを手に入れた。それを知った二人は、ドロップは山分けという事でダンジョンへ連れて行ったのだ。だが二人は、初心者では行かない上級者ダンジョンへシャンスを連れて挑んだ。
上級者ダンジョンとは、仕掛けがあったり強いモンスターが居たりと、ダンジョンから戻るのが難しいクラスのダンジョンで、そこでモンスターを倒せば、凄い物がドロップすのではともくろむも、必ずドロップはすれど質はよくなかった。
それで、マルムザは切れたのだ。
「いいや。もう行くぞ」
「はーい。うふふ」
「あ!」
シャンスが頭から被っていたストールをひょいと、リンナは撫でていた手でそのまま掴み奪い取った。
銀のストールに隠されていた黒髪が現れた。黒髪の者は、魔力が高く期待されていたが、取得した『ドロップ確定』は戦闘自体には役に立たないので、誰も声を掛けてくれなかったのだ。唯一声を掛けてきたのが二人だ。
「返して!」
「うふふ。鬼ごっこする?」
楽しそうにそう言うとリンナは、ストールを頭から被った。
「それがないと……」
「いいんだよ。お前はここで行方不明になってってな」
「……どうしてもう一つ」
シャンスは、マルムザも銀のストールを被っているのに驚いた。なぜならこのストールは、スキルや魔法を授かったとしても戦闘に加わるのが無理な者に貸し出される物だったからだ。
これを羽織った者は、モンスターから襲われづらくなる。装備を整える期間の初級者ダンジョンに挑むレベルが20ぐらいまでの間、貸し出される。
二人は、ダンジョン内を走りモンスターの横を素通りしていく。
「待って! 置いて行かないで!」
半泣きになって叫ぶシャンスの言葉をあざ笑い、その場を去って行った。
「あはは。戦闘も出来ないのにダンジョンに挑むなんて、虫が良すぎるってね」
「やっぱりドロップより、ダンジョン内にあるお宝だよな」
二人は、鼻歌交じりで奥へと進む。
「あった。あった」
マルムザは、小さな宝箱を見つけ、にやりとほくそ笑んだ。
「小さいけど、やっぱり上級者ダンジョンね」
かぱりと開けた宝箱には、笛が入っていた。
「これがきっと噂の『事実無根の笛』ね」
二人のもう一つの目的は、この笛だった――。
◇
赤い頭が二つ並んで歩いていた。その足取りは軽やかだ。
「おい、マルムザ戻ったのか! デビューの子はどうした!」
「っち。気分よかったのにな」
マルムザは、チラッと振り向いた。
「お前まさか、また……」
「またとは何だよ。言ったろ? 前回の子は、自分からモンスターに切りかかって行ったんだって」
「そうよ。それに許可したのはそっちでしょう」
声を掛けた男性の後ろに立つ少女が泣き出した。
「ごめんなさい……」
彼女は、新人の受付嬢だ。
前回ツインレッドと一緒に行った新人のサーチャーが、意識不明なのだ。たまたま他のサーチャーが彼らに出くわし、その子は命は助かったが未だに目を覚まさない。しかも銀のストールもなくしたと二人は言うのだ。
怪しんだが確証がないため、二人には新人のサポート役をさせない事が暗黙に知らされていた。それに気づいたツインレッドの二人は、新人の受付嬢に目を付け他の受付の目を盗み、シャンスのサポート請け負ったのだ。
「で、シャンスはどうした?」
「あまりの嬉しさでダンジョン内を駆け回り、迷子」
「………」
バレバレの話に呆れるサーチャーギルドマスターのナッツだが、それでも更に聞いた。
「どこで?」
「初級者ダンジョンでだ。当たり前だろう?」
『――――――』
「初級だと!? そこは……そうか。もう一度探すぞ!」
「え!? マスター?」
突然驚く命令をするギルドマスターナッツにみんなは驚く。
初級者ダンジョンは、ツインレッドがシャンスを連れて行ったと聞いてすぐに、探しに行った場所だ。そこには、三人の姿はなかった。だから戻って来るのを待っていたのだ。
「うふふ。凄い効き目」
「効果も確認できたし行くか」
二人は高笑いをしながら慌てふためくギルド員がいるサーチャーギルド前を去って行く。
『事実無根の笛』は、どんな噂も嘘も事実として思わせる笛だったのだ。
「いたずらし放題だわぁ!」
「ストールと笛さえあれば大儲けだ」
スキップをするリンナと悪だ企むマルムザ。二人は、次なるダンジョンへと向かうのだった――。
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