132.女神の最期を道連れに
言葉通りに暴れる風が女神を切り裂き、吹き出した血を炎が燃やしていく。水が触れた場所から溶けていくリリィを、大地が飲み込んだ。
その激しさは予想以上だ。オレに残った魔力を全部やると宣言したため、急速に魔力が吸い出されるのがわかる。女神を飲んだ大地が大きく身を震わせ、立っていられずに座り込んだ。
「嫌だ、サクヤっ、やだぁ!!」
ずるずると大地に倒れるオレの手を握り、必死で泣き叫ぶエイシェットを見上げた。やっぱ美少女だよな。オレにはもったいない。覆い被さって泣く彼女の銀髪が顔を擽り、表情が自然と和らいだ。
不思議なほど痛くない。苦しさも感じなかった。こんなんでいいのかな、オレは日本を壊した張本人だってのにさ。激痛も覚悟してたんだぜ? 全身から抜けていく魔力は生命力だ。オレ自身を生かす魔力もすべて手放した。
世界は今日も穏やかだ。見上げた先の木漏れ日が心地よく、目を細めて二度寝しようとしたオレに、勢いよく美少女が飛びついた。柔らかな銀髪がさらりと揺れる。その毛先を捕まえて口付けると、真っ赤になって照れた。
「昔と別の人みたい」
「ん? 昔の方がいいか?」
「どっちでも好き」
王子様を気取ってみたら、逆にこっちが赤面させられた。可愛い番の頬にキスをすると頬を膨らませる。子供扱いされていると思ったのか? 逆だよ、もったいなくて手が出せないんだ。
「ここにいたか」
「イヴリース、仕事はどうした?」
「片付けてきたさ、サボったサクヤとは違う」
肩をすくめて誤魔化す。
「まだ馴染まぬか」
昔の口調に戻った年若い姿の友人は、初めて出会った頃の彼に近づいている。同一人物と知ってる者は少なく、ほとんどはイヴリースの隠し子だと認識しているらしい。本人が否定しないので、その話で落ち着いていた。
「ぎこちないけど、不自由はないぞ」
「それならよいが、エイシェットが生殖機能に問題が出たかもと泣きながら嘆願するので、心配になってな」
「は?」
オレが役立たずって意味か? 確かにまだ手を出してないが……視線を向けると心配そうな彼女が首を傾ける。くそ、可愛い。
この体はイヴリースが再構築した器だ。魔王の体を作り直すのと同じ原理だというが、説明されても理解できなかった。魔力を使い切って召されかけたオレを魔力で包み、無理やり器に放り込んだ荒療治のお陰で、10年近く寝たきりだった。
まあ、感謝はしてる。お陰でエイシェットの番として約束を守れそうだし。
「目覚めて1年も経つのに、まだ番っていないと泣かれたのだ。確認するのは当然であろう」
俺が作った器だし? 不具合があるなら治すぞ。親切そうに下世話な話をするんじゃねえ!
ひらりと手を振って拒否する。
「エイシェット、2人でデートしようか」
「する!!」
大喜びの彼女と大空へ舞い上がる。見送る魔王の姿が見えなくなった頃、こそっと彼女に囁いた。
「オレをエイシェットの夫にしてくれるか?」
驚きと興奮で甲高い鳴き声をあげた銀竜は、曲芸飛行しつつ海岸を目指す。どうやら彼女は初デートの地をご希望らしい。ひんやりとした鱗に全身を添わせ、伝わる熱に目を閉じた。
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