128.戻ったら返してくれ

 女神を維持する魔力? 消費され続けて……え?


 頭の中で繰り返した言葉がぐさりと刺さる。女神はリリィで、日本人の仇ですべての元凶。そんな彼女を維持する魔力がオレから供給されてるってのか?


「オレは彼女と繋がって?」


 声が掠れる。動揺しすぎて震える声を絞り出し、嘘だと否定されるのを待つ。だがイヴリースは容赦なく言い切った。


「女神はあの祠から出られない。ならば、そなたが出口なのだ」


 あの祠から出られないと断定した理由は、おそらく女神の性格だろう。この世界の権能を手に入れた直後、動き回った話は聞いている。オレが出口? 言われてはっとした。彼女が出てきた場所は、すべてオレがいる。最初の出会いも、バルト国での気配も……すべてオレがいる場所だった。


 一度気づきかけたじゃないか。彼女はどうやって移動したのかを、ヴラゴ達の死体を前に答えは出ていた。魔王城から離れられない実体を移動させる、座標がオレの魔力なら?


「ここも危険じゃないのか」


 焦ったオレに、イヴリースは口角を持ち上げて笑った。その余裕を秘めた表情に滲む自信は、熱くなったオレの気持ちを冷やしていく。


「問題ない。言ったであろう? この場所はドラゴンの聖地、あの女神では近寄れぬ」


 言い切る根拠があるとしたら、この場所は避難所となる。魔王城を脱出させた連中を休ませる場所があれば……そう口にしたオレにイヴリースが頷いた。


「救い出した者をここへ送るとよい。我が大切に保護しよう」


 その後の話し合いで理解したのは、女神に対して戦う能力は魔王にないこと。食われた権能が戻れば、対応できる。つまりリリィを倒した後に、彼女と戦う能力が戻るので実質役に立たない。そう指摘したら、笑いながら肩を叩かれた。


「その通りだ、すべて任せるぞ」


 丸投げかよ! そう呟いて苦笑いするも、イヴリースの信頼が擽ったかった。オレ出来ないのだとしても、友人はオレに任せると言ったのだ。その気持ちを裏切る気はない。二度と……イヴリースに背を向ける言動をする気はなかった。


「片付けてくるよ」


「ああ……そうだ。これをやろう」


 突然オレを後ろから抱き締めたイヴリースに、エイシェットが目を見開く。それから泣き出した。また浮気だと言われるのかと思ったが、予想外の発言が飛び出る。


「やだぁ! 変わっちゃう」


「安心せよ、後で回収するゆえ」


 魔族同士で通じ合ってるけど、オレは完全に蚊帳の外だな。ちゃんと説明してくれ。振り返りながら睨んだら、魔王はぎこちなく目を逸らした。


「残っていた権能の一部を、そなたに貸し与えた。無事に戻って返してくれ」


「お、おう」


 そういう事情なら……って、まさかオレが死ぬフラグじゃねえよな?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る