74.まさかの急展開によるドーレク陥落
ヴラゴの支配するアンデッドの国となったドーレクを前に、オレは言葉を失った。唖然とする、そんな表現も追いつかない。荒れた青の都に整然と並ぶ、騎士や兵士の姿に歯ぎしりした。ドーレクの王都は、人間の軍に取り返されていた。国旗を掲げていないため、どこの国かわからない。
「状況の分かる奴、いないか?」
わずか2日だ。留守にした時間は長くない。一番近い森の暗がりから様子を確認したオレの声に、おずおずと進み出たのは1匹の蝙蝠だった。まだ年若く、彼は伝令を兼ねて外へ逃がされたという。
すぐに戻ると言い置いて出かけたオレが戻るのを、この場に潜んで待っていた。他にも数匹、隙を見て逃げた蝙蝠が顔を見合わせる。いざという時に、若者や子どもから逃がすのは常道だった。
「突然襲ってきて、昼間だったので力が発揮できず、地下に追い込まれました」
「昼間でもおっさんのが強いだろ。それにアンデッドは?」
遮るようにして口を開いてしまう。その口調が責める響きを帯びて、オレはひとつ深呼吸した。震える蝙蝠は自分だけ安全な場所にいる自責の念に駆られている。責め立てたら、何も聞けなかった。彼が悪いわけではない。
「悪い、邪魔しないから」
アベルとカインは魔王城に引き上げていた。エイシェットもオレもいない。国を落とした時の戦力の半分以下だとしても、おかしい。オレと互角以上に戦えるヴラゴが、人間の軍隊ごときに負ける筈がなかった。納得できない気持ちと、現実を認めたくない苛立ちが募っていく。
「……妙な液体を撒いたんです。ボスはすぐに撤退を指示しました。ですから吸血種はほとんど無事です。外で働いていたアンデッドは動かなくなりました」
出来るだけ客観的に状況を報告する蝙蝠へ礼を言って、オレは考え込んだ。吸血種が嫌がる液体で、アンデッドが動けなくなる。清める作用がある液体を思い浮かべた。
「
この世界の吸血種は、日本の物語に出て来る吸血鬼とは違う。キリスト教がないから十字架は効かないし、当然聖水もない。その上、純血種でも混血種でも関係なく昼間動けた。多少能力が弱くなり、動きが鈍る程度の影響しかない。魔族の中でも上位に位置する彼らが、人間相手に後れを取る理由が見当たらなかった。
「何にしろ、まずは救出する。ここの王家の屋敷に繋がる抜け道は塞いでたな」
ドーレクを襲うと決めた段階で決行した。エイシェットの尻尾で叩いて潰した出口は、ぐしゃぐしゃに崩れた瓦礫の山になっている。元は小さな猟師小屋に似た建物だった。逃げてきた蝙蝠が同行を申し出たので、彼を連れて抜け道があった林に向かう。
動かした様子はなく、崩れたままだった。ヴラゴはこの道を知っている。内側から脱出を試みるなら、魔法を使える魔族は容易に道を開けただろう。なぜ逃げ出さなかった? 一晩もあれば外へ出られたし、暗い地下なら魔力も強いまま……ん?
何かが引っ掛かった。だが分からない。悩むより動いた方が早いか。
「エイシェット」
「私役に立つ、頑張る」
「見張っててくれ」
むっと口を尖らせたものの、彼女は頷いてくれた。ドラゴン姿ならお願いするが、それは目立ちすぎる。何より、少女に瓦礫除去作業をさせて見守る男なんて、さすがにクズ過ぎるだろ。
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