第24話 ファストフードで考え事
耕陽の服を探した後は軽く食事でも取ろうとファストフード店へと寄り、仁はチーズバーガーにコーラ、フライドポテトとお世辞にも健康的とは言えないものばかりを食べていた。
「久しぶりのファストフードはいい……」
「最近弁当持ってきてたよね」
「うん、本当はラーメンとか食べたかったけど女友達がちゃんとしたもの食べろとうるさいから弁当食ってたけどさ……たまにはこうゆうのも食ってかないと精神が持たんばい」
紫龍は訝し気に視線を仁に向け、耕陽は買った服の入った袋をずっと見つめていた。
初めてクラスメイトと服を一緒に買いに行ったことが新鮮だったのだろう。
普段は親に勝ってもらった服を着ているのが当たり前だったことが同年代の子と相談しながら服を買いに行くことが何よりも嬉しく、気持ちを隠しきれずにいたのが感じ取れた。
「それで、仁は本当にコンテスト用の衣装は革ジャンでいいの?」
「どういうことだ?」
「だってよ、ミス・ミスターコンに出る人は基本的に衣装とか作るか買うか借りるとかして気合入れてる人もいるみたいだからさ……」
「別に優勝する気とかないし俺は俺のスタイルを貫き通すだけばい、自分のスタイルを曲げてまで優勝目指すなんてそんなの嘘っぱちだ。自分のやっていることが正しいと分かっているならわざわざ他人に弁解する必要もないだろ?」
紫龍は唖然としつつも「そうだな……」と頷き、心のもやもやを取り除けずにいた。
仁はやりたくて出るわけではなく、クラスで勝手に決まったから仕方なく出るだけであるため乗り気ではなかったのだ。
人間誰しも言われて行動するよりも自分から行動する方がやる気が出るわけでいざ自分から行動しようとしたら上司や先輩に「何で行動しないんだ!」と怒られるとやる気と共に働く意欲が失せるのと同じ道理だ。
そんな仁は高校を卒業した後の進路を考えると暗い未来しか見えていなかった。
一般社会の常識どころか一般人がこなす仕事すら碌にこなせず、「どこ行っても同じだ」とパワハラを受け、精神を病みうつ病を患う未来が一気に見えてしまったためこの時間が永遠に続けばいいのにと悲観していた。
しかし、時の流れと言うのは残酷であり、中学の頃から思っていた仁は今こうして高校生になっていた。
毎日が地獄で、死ぬまでその地獄を味わって生きていかなければならないというのは仁にとって罰ゲームのようなものだ。
精神的に苦痛を感じ、思うようにギターが上達しないことで苛まれ、父親の計らいで婚約と同時に同棲までさせられていることは一見幸せそうに見えなくもないが辛いものだ。
そんな地獄のような毎日でありながらも仁は人間性や心の拠り所を求めていたのだが現実は優しくはない。
紫龍達の前では極力暗い一面を見せないようにとしているが性格はとても卑屈で内向的で口下手、そして自身の容姿にかなりコンプレックスを抱いており、恋愛は難しいだろうと何もかも諦めていたのだ。
ルーシーとの出会いにより、人を信じる心が少なからず芽生えてきてはいたが、過去のトラウマに囚われている以上、ルーシーに心を開けずにいた。
「仁、さっきから何ボーっとしてるんだよ?」
「……んっ、ああ……ごめん、少し考え事ばしてただけやけん気にせんでよかよ」
「随分と深刻そうにしているけどそんなに両親とは上手くいっていないのか?」
「そうでなきゃヨハンの家に居候なんてしてないよ……」
今はルーシーと同棲をしているなんてことは口が裂けても言えなかった。
友人とはいえ、公にしてしつこく聞かれたりするのは仁の性分に合わないからだ。
とはいえ、高校生で婚約、同棲なんてしていると知られたら何をされるか分かったことではない。
不純異性交遊をしていると難癖をつけられ、捏造でもされたら間違いなく退学させられ人生真っ暗になることだってある。高校を無事に卒業できたとしても一般企業に就職すればパワハラ、モラハラを受けたりとそれ以上の地獄を味わうことになるため、どの道免れることは不可能だった。
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