第16話 冴えない少年はおしゃれがしたい(その2)
「おっぱいとセックスって……それは彼女持ちやセフレのいる男だけやんね」
「二次元もいいんだろうけどそれができないことを考えたらデメリットじゃん?」
「紫龍、仁、オナホかダッチワイフの方が前戯とかしなくていいから楽だぜ」
「「それただのオナニーじゃん」」
悠野はオナホやダッチワイフで処理した方が楽だと言うと仁と紫龍は息ぴったりにツッコミを入れる。
「結論よ、セックスがしたいんならオッパブや風俗行けばいいだろ?彼女できないなら尚更。ってか耕陽はそう言うことを聞きたいんじゃなかったな、ごめん」
「い……いいよ。僕って影薄いから……」
苦笑気味に耕陽は両手を出しながらそう言う。
「影が薄いなら濃ゆくすればいいっちゃなかとね?奇抜な髪型と制服を少し着崩すとかさ」
「仁、そんな簡単に言うけど一日二日で人間買われると思うのか?ここは少しずつ変えていくしかないと思うぜ」
紫龍は仁に注意を促し耕陽にアドバイスを始める。
仁と紫龍のどっちの意見を鵜呑みにすればいいのか分からない耕陽は目を泳がせる。
「俺が言うのもなんだが髪を伸ばしておしゃれにしたいとかでもないなら少し短めに切るってのはどげんね?それからポマードかグリース使ってポンパドールなりリーゼントにするとかさ――」
「それ高校入ってすぐのお前じゃねえかよ!リーゼント辞めたかと思ったら髪下ろしてグラサンとかさ」
「マブダチの意志を継ぐためにはそうせざるを得なかったんだよ。髪の毛自体は元々ネオロカ風に髪伸ばしてたから髪が伸びるまで待つ必要性もなかったしあとは髪の毛を染めるだけだったから今の俺があるわけで……」
「ということで仁の案はこいつには難しいな。生徒会の子と付き合うなら仁みたいな格好してたら間違いなくアウトでしょ」
こうして仁の案は却下され、紫龍の案を中心に耕陽の恋愛を実らせることにしたのだ。
「まぁ、俺は所謂不良だから生徒会からしたらふざけるなって感じだろうからなぁ……普通の生徒である紫龍の意見聞いといた方が確実やと思うばい。俺はやりたい放題だから正直君の力にもなれないそうだし。まぁよかっちゃない?俺を通して紫龍にファッション教えてもらえるっちゃけん結果オーライよ」
仁は呑気に個人練習に入り、ランダムスターを片手に弦を鳴らす。
弦の振動がアンプに入力され、その入力された音がピックアップによって増幅されて歪みが生じる。
ロックやメタルでは当たり前のように使われている歪みであるがこれはエレキギターのアンプでは本来ないはずのギミックであり、とあるギタリストのアンプが壊れたことから始まったと言われている。
それから数年の月日が経ち、プリアンプとパワーアンプを分離させたものを販売する時代になり、ロックンロールすなわちハードロックやヘヴィメタル系のミュージシャンはマーシャルから発売されたプリアンプの搭載しているヘッドアンプとパワーアンプ搭載のキャビネットと呼ばれるスピーカーを使用することでプリアンプとパワーアンプが一緒に搭載されているコンボアンプ以上に凄まじいサウンドでギターを奏でることが可能になり、ライブでは複数のアンプとスピーカーに繋ぎより迫力のある音で観客を驚かせ、ロックンロールの可能性は更に広がったのだ。
しかし、アンプの大型化とギタリストの演奏技術が向上しすぎたあまり、それに到達できないミュージシャンも出てきたのもまた事実で90年代のアメリカはそう言った速弾きやディストーションのかかったギターサウンドよりもオルタナティブロックやグランジパンクなどのテクニカルではなくよりシンプルでメッセージ性の強い音楽が強調されていった。
80年代のロックンロールはブルースを軸としたバンドも減り、ハードロックとヘヴィメタルはクラシックやジャズの要素を取り込んだりと恐竜のようにさらなる進化を遂げ、ライトハンドやスウィープ奏法など数々の奏法が世に広まっていた。
北欧からデビューしたギタリストが通常のギタリストでは用いない音階を使って速弾きしたことでペンタトニックスケールが主流だったロックンロールのギターソロのバリエーションが広がったりと80年代はロックンロールにとって全盛期そのものだった。
50年代でロックンロールが本格的に知れ渡り、数々のミュージシャンが不慮の事故で亡くなったりとしたことで「
そのせいもあってかハードロック、ヘヴィメタルのような速弾きをするギタリストはダサいという風潮が成り立ち衰退していた。
一方日本では90年代辺りでもハードロックやヘヴィメタルの要素を取り込んでいるバンドも数多くいた。
ヴィジュアル系バンドなどはハードロックやヘヴィメタルの要素を取り込み独自の音楽性を立ち上げたりと灯を絶やさないようにしていた。
ハードロックとヘヴィメタルを略してHR/HMと呼称し、今もHR/HMを聴くマニアは日本にもいる。
海外に比べると日本はHR/HMを聴く割合は多く、動画投稿サイトに載せる人もいた。
そして仁は日本でハードロックが普及しない理由を考えていた。
日本でハードロックをするために必要な技術が日本にはないものがあるからだ。
ギターやベース、ドラムなどの演奏技術は後天的に伸ばすことが可能だがボーカルに関しては後天的に伸ばしてどうにかするには限界があった。
日本人の声帯は白人や黒人と違うようで声の太さが足りないためだ。類稀に白人や黒人に匹敵する声帯の持ち主もいるが割合が少ないため日本でHR/HMをやるには環境が整っているとは言えなかった。
70年代にハードロックにあこがれて上京したかと思えばアイドルバンドとして売り出されていた若者たちがいたがサウンドは本物だった。
本格的にハードロックに専念していた頃にはそのバンドは音楽性の違いが出て解散してしまったが今もなおその若者達はハードロックサウンドを活かして活動している。
仁はそんな大物達の背中を見ているからこそ上達の伸び悩みに苦しみ、少しでも近づきたくて歯噛みをしながら演奏をしていた。
「くそっ……どうして俺の指はこんなにも動かないんだ……」
「そんなに慌てなくていいんじゃないの?俺なんかお前に比べたら大したことないよ」
「それでも俺はもっと上手くなりたい。俺はこうゆうのでしか自分と言う人間を表現できないからもっと指が動くようになって誰からも認められる人間になりたい!」
さっきまで適当な発言ばかりしていた人物とは思えない程見違え、真剣になっていた仁を目の当たりにした耕陽は自分も頑張らなきゃと思うようになっていた。
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