第14話 仁と冴えない少年
昼休み、学校の屋上で仁は煙草を喫煙していた。
「仁、いるか?」
その声に慌てた仁は煙草をポイっと投げ捨てた。
「……って、なんだヨハンか」
「何だじゃないだろ。昨日早退したのは風邪とかじゃないんだろ?」
「いや、風邪だけど」
「昨日あんなにピンピンしてたってのに風邪とか普通ありえないって。まぁ、お前が何か隠しているのは分かるが聞かないでおくよ」
ヨハンはニヤケながら仁にそう言い、煙草を口に咥えた。
「んで、お前侑と上手くいってんの?」
「ボチボチと言ったところかな。まぁ、そこらのバカップルよりは全然良好だとは思っているよ。ジョルノ先生」
「その名前で呼ぶなよ……俺が侑の小説のイラスト書いているのがバレるだろ……」
「それもそうだな。それよりも、お前ってもう恋愛とかしないの?」
ヨハンは仁に誰かを好きになることはもうしないのかを訪ねるも仁は一向に答えようとはしなかった。
「過去に何があったかは知らない。でも、今まで仁が好きだった女は形だけのもので今の仁は本当の愛を求めてるんじゃないのか?」
「俺はもう恋はしない……俺は今まで誰かを好きになって良かった試しがないからね……」
「こうゆうのって時間が解決してくれることもあるんだぜ?お前が急ぎすぎもしなければ三次元の女にも絶望しなかった。お前はそんな自分の失敗を許せないのは分かるよ」
仁は口籠らせ、ヨハンは仁の気持ちを理解したうえで時の流れがぽっかり空いた心を塞いでくれると励ましてくれた。
「それに、俺は日本の女は好きになれん」
「仁、お前日本人なのにその物言いは……いや、侑以外の日本の女は俺も好きではないがな」
「最近よ、小学生の頃に金髪碧眼の女の子と婚約していたことを思い出してよ……俺はそんな約束を最近まで忘れていたんだ。だから俺に誰かを好きになる資格もないし本気で誰かを好きになるのが怖い……」
「それは初耳だな。でも、仁って女の子みたいに可愛い顔してるから外国人の女の子に受けるかどうかは分からんがお前が二次元に走ったり金髪巨乳にこだわる理由はなんとなく分かった」
ヨハンは仁の話を聞いてそのことに頷く。
「しかしよぉ、その話を聞くとお前はエミリーちゃんかルーシーちゃんのことが好きってことじゃ……」
そう言いだそうとした瞬間仁はヨハンの頭をげんこつする。
ヨハンの頭から鈍い音が鳴り響き、涙目になりながら声を唸らせる。
「別に殴ることはないだろ……」
「エミリーは丈のことが好きで丈もエミリーのことが好きだったからそれはないしルーシーに関してはツンツンしてて苦手だ」
「でもよ……ルーシーちゃんはツンデレの部類に入るんじゃないのか?結構ピュアそうな感じとかするしよ?それにお前と結構息ぴったしじゃん」
「マジでせからしかねぇ……大体ヨハンは何が言いたかとね?」
仁は訝し気にヨハンを睨みつける。
「サングラスかけた状態で睨まれると余計に怖いんですけど……」
「うるせえな、つーか教室に戻ろうぜ。早くせんと授業始まるばい」
「おっ、おう……てかお前いつも寝てるじゃん」
仁とヨハンは昼食を食べ終えた後、教室へと戻った。
放課後になり、仁は音楽室へと向かおうとした途中に一人の少年と出会った。
その少年は音楽室付近でおどおどした様子でうろうろとしており、仁は少年の後ろから声をかける。
「音楽室の前でなんしようとね?」
「わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
少年は仁に声を掛けられたことで悲鳴にも似た声をあげる。
「いやいや、そげん驚かれたらこっちがびっくりするばい」
「あっ、いえっ……その……坂本仁さんっていますか?」
「坂本仁って俺っちゃけど何か用ね?」
「そのっ、侑さんからカッコいい男性用の服装は坂本君の方が詳しいからって」
少年は侑の名前を出し、仁にカッコいい服装を教えてもらえると思って音楽室に訪れたらしい。
「んで、君の名前はなんて言うとね?」
「ぼっ、僕ですか?僕は赤丸耕陽と言います……御覧の通り冴えない男です」
「ふ~ん、冴えない高校生ねぇ……」
赤丸耕陽という少年は確かにお世辞にもカッコいいというわけでもなく、身長も170cmある仁に対して5~10cm程度低く、顔立ちは仁同様に中性的で黒い髪の毛がもさっと長くおしゃれに関心がなさそうな少年だ。
「それで何で俺なの?侑から俺を紹介されたって言ってたがまぁいいや……俺達の演奏を部員以外に聴かせるチャンスと思っとるけんついて来んね」
仁は耕陽の手を握り音楽室へと引き込む。
「紫龍、お客さんが俺達の演奏聴きたいって」
「マジで?俺達の演奏技術がどれほどのものか知ることできるじゃん」
「んなら今からやろうぜ」
紫龍と悠野は演奏準備をし、仁も深紅のランダムスターをアンプに繋いだ。
「ワン、ツー、スリー、フォー……」
悠野はカウントを取り終えると轟音が鳴り響き、耕陽の耳には仁達が奏でる音楽が鳴り響いていた。
仁のザクザクとした攻撃的なサウンドに紫龍のテレキャスから奏でられる細い音にジャキジャキと耳をつんざくような音に、それを支えるズシリと重たいドラムにベースがいることでバランスは保たれていた。
演奏が終えた後、仁は「どげんね?」と耕陽に尋ねた。
「うん、いい演奏だと思うよ」
「練習しとるけんね。嬉しかばい」
仁は耕陽に褒められたことで自信が湧き、耕陽は本来の目的を忘れていた。
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