第13話 二人で食べるラーメン

 昼食を食べ終え、弁当箱を綺麗に洗った後、仁はそのまま「ラーメン買いに行くけん」と言いながらマンションを出た。


 ルーシーはマンションを出た仁の後姿を見た後、どこか切なさを感じていた。


 その思いが恋心からなのかどうかは定かではないがルーシーは孤独になることに恐怖し、怯えていたのだろう。


 両親が不慮の事故で亡くなってからエミリーを何が何でも守ると誓い、そのおかげで養母からは妬み嫌われていたのだから。


 エミリーはそんな養母や養父の言いなりになっていたためにルーシーほど冷遇ではなかったがそれも全てはエミリーのため、ルーシーはエミリーに幸せになってもらえればそれでよかったがエミリー以外の相手にそのことを相談できず、心の拠り所を探していた。


 ルーシーは他にも色々な相手とお見合いをさせられていたりとしたがルーシーは断り続け、養母からは「選り好みの酷い自分勝手な女」と罵詈雑言を浴びせられていた。


 そんな時、仁とお見合いをする話になりそれを呑んだ。


 そしてルーシーは写真を見ながら幼い頃の出来事を思い出しながら変わり果てていた彼のことをまた思い出す。


 彼が一体誰のことをさしているのか、そして侑はそれを知っているようだ。


 「侑のバカ…………あの人はきっと心を取り戻してくれるんだから…………私が婚約したのだって…………」


 ルーシーはお気に入りの枕を抱きかかえ、そのままベッドに横になる。


 侑と口論になり、精神的にも疲れたルーシーはそのまま眠りにつき、目が覚めた頃には夕方になっていた。


 ルーシーは写真の彼のことを妄想しながら頬を赤らめ、自身の豊満な胸を弄りながら甘い声を出し、体中に熱が帯びていた。


 「はぁはぁ」と息を荒げ、自分自身を慰める行為をしているとどこか落ち着きを取り戻しており、この時間は自分の物なんだと認識する。


 この姿を誰にも見られたくない一心からそのような行動に走るようになり、気を紛らわせていた。


 するとドアから再びノックする音が聞こえ、「ラーメン作るけん早よこんね」とドア越しから仁の声が聴こえた。


 ルーシーは仁の声にビクッと反応し、自分の行っている行為が仁にバレたのではないのかと胸の鼓動が高鳴り、「ちょっと待ってて……」と慌てた様子で返事を返す。


 すぐさま服装を整え、両手をウェットティッシュで綺麗に拭いた後、自分の部屋を出た。


 リビングには仁がいて、テーブルにはお湯を入れ立てのカップラーメンが二つポツンと置いてあるだけだった。


 「今お湯入れたけん三分待っとってね」


 「作るって、お湯入れただけじゃないの……」


 ルーシーは仁の言葉を信じた自分自身に呆れ溜め息を吐いた。


 「それに私、豚骨ラーメンって苦手なのよ。匂いと言い、脂ぎってて……」


 「せっかく作ってやったんにその言い草はなかばい」


 仁は眉を下げ恩着せがましくルーシーに言う。


 三分が経ち、仁とルーシーはカップラーメンの蓋をベリッと剥がし箸を持つ。


 「なんね、結局食べるとやんね」


 「しょうがないでしょ。あなたがお湯入れた以上粗末にはできないわ」


 「やっぱりエミリーのお姉さんやね」


 「いただきます」と仁は手を合わせ、ルーシーもそれを真似して手を合わせた。


 ご飯を食べる際、手を合わせるのは日本の習わしであり、日本は礼儀作法に厳しいと海外で定評があるようだ。


 そして、古き良き伝統を大切にすることもあってか社会に出ると堅物のような大人達が社会を仕切っているため新しいものを取り入れようとする若者たちはそんな古い大人達の考えについて来れず脱落し退職してしまうこともよくあるそうだ。


 古き良き伝統を大切にする割には古いものを大切にしないこともよくあり、そんな古い大人達は自分達の考えが正しいと思い若者達に形ばかりの古き良き伝統を押し付けていた。





 ルーシーは幼少期、今の両親に引き取られる前に日本に短期間過ごしていた時期があったようでそんな堅物のような古い大人達しかいないような日本が嫌いであり、自分達と肌の色の違う人間と生活することに不安を感じていた。


 日本の子供達は「可愛い」「お人形みたいに綺麗」とテンプレ発言をしてはルーシーとエミリーは特別扱いされ、そんな環境に嫌気がさしていた。


 そう思っているときに写真に写っていた彼と出会ったのだ。


 彼はいつも下を向いているような少年で、誰かといるとしたら金髪碧眼の少年といつも一緒に教室で絵を描いたりとインドアよりで彼の瞳は光のなくいつも曇っており、表情もどこか固かった。


 ルーシーはそんな彼に声をかけるとエミリーと間違えたのか「エミリーちゃん?」とどこか困惑していたようだ。


 当時のルーシーの日本語は片言ではありながらもエミリーよりも日本語は得意用だったので彼と仲良くなるのも時間の問題だった。


 ルーシーは彼と二人になる時間も増え、彼の家で一緒に絵を描いたりと楽しいひと時を過ごし、日本にいることで心が満たされていた。


 そうしてルーシーはエミリーと一緒にイギリスに帰る日が訪れ、ルーシーはそんな彼とある約束をした。


 



 「ルーシー、麺伸びるよ?」


 仁は何度も上の空を向いていたルーシーに声をかけるもルーシーは全く反応がないようで、ルーシーはようやく気付き「きゃっ!」と声を上げる。


 「大丈夫?」


 「だっ……大丈夫よ……」


 ルーシーは頬を赤らめながら仁にそう言い、ラーメンを食べ始める。


 仁と同棲を始めてからやけに昔のことを思い出すようになったルーシーはそんな彼に相応しい女性になりたい気持ちと、そんな彼が本当の愛を知ることで心を取り戻してくれるならいいのにと複雑な気持ちで麺を啜った。


 「美味しかね?」


 「……まぁまぁだわ……」


 ニコニコ笑いながら仁は味の感想を尋ねると、頬を赤らめたルーシーは視線を逸らした。


 「その様子やと不味くはないってことでよかとやろ?」


 「……たまにはラーメンもいいと思うわ」


 ルーシーは仁に本心を素直に伝えることができなかった。


 カップラーメンはとても味が濃ゆく、豚骨スープもしっかりと出しが取れており後味もしっかりとしていた。


 しかし、自分の手料理を食べてほしいルーシーからしたらそのようなカップラーメンのようなインスタント食品を素直に喜んで食べられずにいた。


 「月に一回くらいならいいと思うけどやっぱり一緒に暮らしている以上はラーメンはダメね」


 「えぇ~!」


 ルーシーは冷たい表情で仁にそう言うと、仁はラーメンを食べられない日がまた訪れるのかとガックリときていた。

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