第10話
とりあえず箱の改造に取り掛かる。
求められる要件はスマートフォンを2台取り付けることができる、箱から即座にブザーを投げることができる。こんなところか。この箱には扉が一つであるし、上のほうに開閉式の小窓をつけてものを投げられるようにしよう。
本来は電動工具を使いたいところだがぐっと我慢して、錐とはさみとカッターナイフを手に取った。切った後に丁寧に紙やすりをかけていこうと思ったが時間がなかったので、テープで保護する。
スマートフォンを取り付けられるよう上部に添え木を打ち付けた。
「ヒロ、ここに電話を取り付けることができる」
「ありがとう。こっちは任せて。あとは君が必要と思うものを身に着けてくれ」
僕はじっくりと状況を考える。持ち物は少ないほうがいいだろう。見つかったら逃げることを優先するため武器の類はいらない。手袋をはめ腕にテープを巻きながら考える。そして僕は傘を2本持っていくことにした。これで、最悪防戦しながら逃げることができる。
できればフルフェイスヘルメットなどを用意してどこをかまれてもいいようにしたかった。ないものは仕方がない。
「きみ、ブザー10個あげるわ。あとこれは壊れにくい特別仕様や」
そういわれてリンさんに10個のブザーと角材の箱に包まれたブザーを渡される。なるほど、角材の中なので容易には破壊できないだろう。
「スイッチをこっちに動かせば鳴り始める。スライドスイッチだからポケットの中で勝手に押されることはないと思う。多分……。電池を外しておいて使うときつけてもいいんやけど、焦ったらかなわんなと思って……こうしたんやけど」
そういって目の前で鳴らすところを見せてくれる。少し不安そうに見える。
「ありがとう」
僕は大事にそれらを受け取ってポケットに入れた。先ほどは緊張していたが徐々に平静に戻ってきた。
「それとな。はい」
そういって真っ赤な水らしきものが入った瓶を渡される。
「中に私がさっき指切って血を入れた。それに水とアルコールを入れたもんや。こう、こんな風に投げたらいいと思うわ」
ぶんぶんと手を振りながら説明する。
「それと、それとな。えーとそうだ。髪。髪も体細胞やし」
そういってはさみに手を伸ばしたので止めた。
「何するつもりだ」
「その、髪を切って束にして渡そうと思って、それでそれから……」
やはりすごく焦っているように思える。現状体に傷をつけるのはまずいことはわかってるはずだ。
彼女の焦りを客観的に評価するために僕はリンさんの腕を取り脈を数える。
「なんで脈を数えるねん」
落ち着いた彼女は見事につっこみを入れてくれた。
「自律神経の活動を評価するためだ」
こちらも冷静に返す。彼女はこちらをじっと見た。
「はぁ。冷静じゃなかったみたいやな。その、これ作ってるうちに私のせいで君が死ぬかもしれないと思ってしまって」
リンさんはすぅはぁと大げさに深呼吸をしてみせる。それから
「絶対、ハナさんを連れて帰ってきてな」
そう僕の目をみて強くいった。僕は強く頷いた。
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