第9話

「行動計画について立てていきたいね。リンさんはこちらの話を聞きながらとりあえず、ブザーをたくさん作ってくれないかな?というか、何個くらい作れそう?」


「興味ある人が少ないから、張り切って買った教育用のが余ってはいるんやけど……。ざっと数えた感じ、18個は作れると思うわ」

 18個か。効果的なタイミングに使わないと足りなくなりそうだ。


「それだけあればいけるのかな。それじゃあ計画立てていこうかな。といってもできることを考えていくとおのずと決まっていくけどね」

「そうだな。まずは退路の確保、次にロボットを外に運んで実験、その後結果を見て出発。三階のトイレまで移動、ハナさん回収、戻ってくる。こんな感じか」


 ひとつひとつ状況を考えながら話す。

「それでいいと思うよ。ただ、最悪箱の中にハナさんを入れトイレから離れればそれでいいかな」

「確かにそうだな。そこまでできればまた、見つかるまで時間を稼げる。とはいえ、一番の課題は見つからずに移動するところだろうな」

 実験次第ではわからないが、おそらく箱に入って移動すれば即座に襲われることはないと思われる。ただし、派手に動けば見つかるだろうし、できる限りゾンビたちの目を盗んで移動する必要があるだろう。


「箱の中からでは、周囲の様子を満足に確認することもできない」

「それに関しては僕に考えがあるよ。えっと、ステルスゲームをしてる時、裕斗が敵に見つからずに移動できるのはなぜだと思う?」

「それは、敵より多くのものが見えるからだ」


「そうだね。壁越しとか、人より広い視野があるからだ。僕たちもたくさんの視野を持てばいいのさ。カメラを箱の周囲をすべて見渡せるように取り付けてね。幸い、通信機器はいくつかある。それを僕とリンさんがここで見ながら君を支援するよ」


 なるほど。それならば、一人では処理できない情報も処理できる。


「慎重ということは、前進と止まれなら止まれ。続行と撤退なら撤退ということか。それで僕がやるべきはロボットのように君たちの指示を忠実に実施すると。それなら緊張もしにくいし、冷静な行動がとれる。失敗の確率も減るかもな」

 まだ計画を話している段階なのでそれほどでもないが、実際にやる段階ともなれば緊張は必至。指示を受けて動くほうが気が楽だ。箱に入るという措置はゾンビを直接視認する機会を減らすという副次効果もあるかもしれない。


「分かった。それで行こう。ただし、撤退に関しては僕の意思も尊重してほしい」

「それはそうだね。ただ、撤退に関しては先ほどの第二案を実行することになる。つまり、ここにあるブザーで敵を拡散させている間にハナさん、君の両方が走ってここまで戻るということだ。これは君だけじゃなくハナさんに危険が迫っている場合も考えられる」


「トイレの周りをうろついてるゾンビが限界まで近寄ってきたときとかやな。そういう時ははよ音でおびき寄せんと先にハナさんに感づいた場合、逃げれんくなるからな」


「分かってる。決定を引き延ばして状況を悪化させるなということだろう。君たちに従うさ」


 僕も別にぎりぎりまで粘って状況を悪化させたいわけじゃない。ただ、自分の命が危険にさらされてもハナさんが助かる可能性を上げれるなら撤退せず粘ろうというだけだ。僕の返事を聞いてヒロは満足そうに頷いた。

「じゃあ、これで行こう。退路確保を開始するのを45分後。55分後には箱に入って助けに向かおうか」


 僕は実施時間の決定に頷いた。


 僕は話す二人を横目に作業着に着替える。手袋をして、箱の下板のねじを外した。箱の扉を開けて中に入る。暗い。大きさは人が一人入って余裕があるくらい。感情のないロボットのための箱。生きていないものが入る箱。これが自分の棺桶にならないといいなと思った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る