第7話

「できたで」

 そういうと、手に握られた装置のスイッチをかちりと切り替える。

 ビィーと甲高い音がへやに響いた。その後すぐにスイッチは切り替えられ、音は止まる。


「おそらくな、ゾンビの行動は認知機能と結びついて決められてる」

「うん。そうだと思うよ。あいつらは一定の規則に基づいて行動し、そして生存者を発見し、襲ってると思う」

 ヒロは自分の服を放置していたのを申し訳なさそうに言った。ちなみに自分の服もあるので、僕も申し訳ない。リンさんはうんうんとうなづいて先を続ける


「その監視の中を、見つからずに行動するなら彼らの認知の限界を知る必要があるわけや。それで私がもし、ゾンビの立場で生存者を発見すると仮定して使える人間の認知能力は聴覚、視覚、嗅覚の可能性が高いと思うわけやな。ゾンビに人間にない能力があれば話は別やけど」


「それは、僕も正しいと思う」

 自分がそれに同意すると、

「じゃあ、ヒロその手に持ってるのを窓から投げて。」

 ヒロはやっぱりなという表情をして、顔を少ししかめた。が、実際それがしなくてはならないことと理解しているので、そっと窓を開けて、投げられる隙間を作った。


 そして「なげるよ」の掛け声とともに丸められた服が宙を舞う。


 まず、ふわりとその服は音もなくアスファルトに舞い降りた。

 すると、さっとそちらにゾンビたちの視線が向けられる。これは先ほど向こうにある建物の二階の生存者を襲った者たちも同様であった。


 それに対して10mほどだろうか、その付近にいた一匹が徐々に近づいた。

「匂いで来てるのは間違いなさそやな」

「そうだね、同じ距離なのに向こうの奴は反応して、こっちに歩いてきてる」


 自分の体液に寄ってきたからだろうか、少しいやそうな顔をしながら冷静な分析をしている。彼が言うように30mほど遠方だろうか、一匹のゾンビが遠くから歩いてくるのが見えた。同時に周りを見渡すと、確かにそのゾンビより近い距離であるのに歩いてこないものがいる。風の影響と断定はできないが、それが正しそうに思える。


 そして、ゾンビがペットボトルに近づいた瞬間、そのゾンビは態度を豹変させた。あわただしく走り出し、立ち止まると激しい動作で攻撃モーション(殴る、かみつく)を繰り返しだしたのだ。


 そして、もう一匹が悠然とこちらに近づいてくる。

 そこでリンさんがさっとブザーをスイッチを入れて投げる。

 ビィーという音を響かせながら、アスファルトに落下する。かすかにこちらにも音が聞こえる。だが下にいるゾンビにとってはさらに効果的だったようで、さきほど向かいの集団を襲った二階のゾンビたちまでもそこに向かう、もちろん二階から飛び降りて。


「今の見た?」

「うん。匂いに向かっていたと思われるゾンビは音のなっている方に向かったね」

「つまり、嗅覚より聴覚のほうが優先順位が高いということか」

 しかし、匂いにより興奮状態にあるゾンビは、音のなるほうに向かわなかった。ここにも優先順位があると考えられる。


「やっぱり、匂いで反応するなら早めに助けに行った方がいいかもしらんな。ハナさんにその旨を伝える。できるだけ、空気の流れを作らないようにとも伝えとくわ」

 そういうと、リンさんはメッセージアプリで連絡を取り始めた。


「分かった。こっちは裕斗とゾンビたちの行動パターンをまとめるよ」

 そういってヒロが手を引くので、それにひかれてホワイトボードに向かった。


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