第5話


 二人もパタパタと駆けてきて隣の窓の外をのぞいた。


 今、僕らがゾンビと呼称しているもの。

  彼らの見た目はまったくもって常人と変わらない。服に血がついているのと異様な行動をとるのを除けば見分けなどつかない。 

ゆっくりと……おそらくはランダムな方向に歩いている。本当にランダムであるかは統計解析してみないとわからないけど。ん?

「奴らはなんで歩けるんだ?というかさっき走っているのも見たが」

 疑問が口をついて出る。


「いや、よくわからないな、脳の運動をつかさどる部分をウイルスだか寄生虫だかが操ってるとか。といってもどれが正しいか確かめるすべは今ないしな」

「でも、彼らがどこまでできるんかは考えた方がええんやない?階段をあがれなかったら高い階にいれば安全なわけだし」


「それは残念ながらない。あっちを見てくれ」

 そういって僕が指をさしたのは現在ゆっくりと階段をあがるゾンビの姿だった。

 そいつは途中で一度体勢を崩して倒れこんだ。しかしながら地面に倒れこむ寸前で手をつき、その体を支えたのである。


「階段はあがれるし、当然のように反射反応もあるわけか。あとは知性とでもいうべきものがあったら、もはや人間との違いなんてないのかもしれないね」


 知性……か。

 それはとても定義が難しい。けれど言いたいことはよくわかる。

「だけど、知性はないんじゃないか?あそこの二階、何人か人がいるのが見える。それで、その窓のちょうど下にゾンビが集まってる。彼らは一階の壁を叩いているが、もし彼らに知性があれば建物の二階に上がる判断をするだろう」


 二人に二階の生存者を指さして言う。

「確かに、そうだね。ゾンビには思考力が欠けているようだ。この調子なら二階の彼らはゾンビの餌食にならず生存できるかもしれない。機会があれば合流を……」


 ヒロがそこまで言いかけたところで、二階の彼らが大慌てで後ろを向くのが見える。そして一階にたむろしていたゾンビたちが、一斉に移動を開始した。驚くべきことにゾンビたちは、同一の扉に一斉に入っていく。どこに移動したかは、実に明白であった。


 ゾンビの集団が、瞬く間に二階の人間たちの後方に現れたからである。





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