第4話

「僕は生きている。大丈夫だ。絶対に人のいっぱいいるところに行ったら駄目だ。家からできるだけ出ないでくれ」

 それだけ、書いて送った。既読は……画面をじっと見つめてもつかなかった。見つめる時間が長くなるほどに不安が募り、僕は顔をあげた。みんなと目が合った。みんな一様に不安げな顔をしていた。


「……ところでちょっときみ。こっち向いてなんか私ときみしか知らんようなこと言って」

「えっ?」

 リンさんがヒロの両手をつかんで、そういった。

「いや、なんか私以外私じゃないんじゃないかって、不安になって」

「わ、わかったよ。えっと、リンの夕食が羊羹と栄養ゼリーってこと?」

 それは、僕も知っている。リンさんがちらっとこっちを見た。

「ソラも知ってるって顔してる。というか、それはみんな知ってるやろ。なんかもっとないんか?長い付き合いやろ」

「……この間,カレー屋さんの前で一時間うろうろしてたとか?」

「なんで、知ってるの。あの時、君は偶然会ったって言って、一緒にお店入ってくれたやないか。一時間私を観察してから声かけたんか?」

「だってリンがどうして、うろうろしてるかわからなかったから。前に飲食店に一人で入るのが怖いって聞いたことがあったから声かけたんだ」

「そそそ、そんなわけないやろ。何、嘘を言ってるんや。あ、あれはなあの店が悪いんや。ブラインドで中を見えにくくしているうえに、注文方法を探しても出てこなかったんやから。……分かった。君は君で間違いない。この話はおしまい。」

 顔を赤くしながらリンさんがまくしたてる。飲食店に一人で入れないのか。クールな彼女の予想外の一面に驚いた。そして、事情をだいたいわかっているのに一時間リンさんを観察したこの男はヒロで間違いないだろう。


 じゃあ、外の観察を始めようか。主要になるのは彼らの行動。特に獲物の探知について。これが分かれば助けに行くことができると思う」


 ヒロがホワイトボードにゾンビの絵を描いた。上手にかけている。

 ここにゾンビの行動とか習性をまとめていくということだろう。救出の手段を決めるにしてもまずは敵を知らなければならない。


「さっきソラを引き留めといてあれやけど、観察とかしててその間に後輩ちゃんが食べられたりしないかな?少し心配になってきたわ」

「おそらく、そんなにすぐ食べられたりはしないと思うよ。部屋の中にいる僕たちはまだ捕まってないし、敵は壁の中にいれば気づきようがないんじゃないかな?何か壁を投資する手段があったら話は別だけど……」


 現状、僕らが見つかってない事実を鑑みるに、ハナさんがじっとしていさえすれば見つからない可能性も高い。ハナさんの体力にもよるがトイレには水もあるし最長で二~三週間生き延びることもできるだろう。

「何かあるか確かめるためにもとりあえず、情報収集は必須だ」

 そういうと、僕は率先してカーテンを少し上げて外を窺う。

 


 


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