第3話
僕は近くにあった作業着を上に羽織ると、布を腕にテープで巻きつけていく。
それが終わると部屋の扉に手をかける。
その手をヒロが押しとどめた。
「待って。一人で行く気かい?」
「みんなを危ない目には合わせられない」
それにおそらく三人で向かうより一人で行った方が生還率は高い。今ならまだ人が残っているからそっちを追ってくれる可能性も高い。人が減り自分だけが狙われる状況になる前に急いで突破するのがおそらく最善だ。
「落ち着け。もっと情報を集めよう」
「早くいかないとハナさんがっ」
なおも扉に手をかけようとする僕をリンさんがグイと手を握って押しとどめる。
「あんた自分を映画のヒーローと勘違いしとるんやないか。外を見てみ」
激しく叱責する。そしてそのままその手を引いて窓の外を見せる。
「あれを見てみ」
リンさんが少しあたりを見回して指をさす。指先には一人の男が先頭に立って何かを振り回している。それで一人二人とゾンビをなぎ倒していく。その後ろを一人ついていくのが見えた。しかし一人があっという間に噛まれる。先頭の男はそれに気を取られ噛まれた。
「ええか。先頭の男は確実に君よりがたいが良くて男前や。それでも彼は一人救うこともできずに噛まれた。事情は分からんで。でも後ろの子も彼が助けに来なかったらもっと長く噛まれずにいられたかもな。後輩ちゃんも今すぐ君が飛び出したら君のせいで死ぬかもな。君が今噛まれないでいるのはなんでやと思う?異変に気付いて一番最初に逃げ出した腰抜けやったからや。勇気と無謀を一緒にしないことや。うちは君にも噛まれてほしくないんやで」
最後は諭すように優しく言われた。焦っていた頭が冷える。そうだ。もし、助けられたとしてハナさんを連れてここまで戻ってこれるのか?自分が今すごく愚かしいことをしようとしていたことに気づく。
「裕斗、そんなに落ち込むな。君が行こうとしてなかったら僕が行ってたと思う。君のおかげで冷静になれた」
「うちもや。さっきの半分自分に言ってた」
タハハとリンさんが軽く笑う。そうかも。僕もヒロかリンさんが自分のやろうとしてたことやったら確実に止める。
「まだ僕らは捕まっていないし、ゾンビは部屋の中にいれば気づかないのかもしれない。ことが起こってそんなに経ってないし、救助の人が来てくれるかも。冷静にとりあえずもう一度情報収集だ」
ヒロがそういいながらガラガラとホワイトボードを引いてきて、黒のマーカーで「ハナさん救出作戦」と書き込んだ。
僕も携帯電話を取り出し、情報を……。
そういって、ヒロはガラガラとホワイトボードを引いてきた。僕は携帯電話を取り出し、電源を入れる。誰からもメッセージは来ていない。友達と言えるのはここにいるみんなくらいだし、仕方ないかもしれない。父さんとはもう長いことまともにしゃべってないし。
次に、僕は検索エンジンを立ち上げてゾンビと打ち込んだ。すると多数の映像がヒットした。
「やっぱり、ここだけで起こっているわけではなさそうだね」
そういってヒロが携帯の画面を見せてきた。あぁ、この場所は東京か。そうなると、ここだけで起きているわけではないのは確実だろう。
「これも見て」
リンさんが携帯をこちらに見せる。ヒロと二人でのぞき込むとそこには外国の人たちが逃げ惑う様子が映されている。
「これはどこの映像だい?」
「アメリカらしいで。それと不思議なのが、他の映像も直近にあげられたものばっかりなんよ」
そういって、海外の映像をスクロールしてみせる。確かにどの映像も十分以内にあげられたものばかりだ。
「ということは、これは全世界でほとんど同時刻に始まった現象なのかもしれないね。そう考えるとネットで情報をあさるより、自分たちで必要な情報を調べておいた方がいいかもしれない」
広い地域で同時に起こっている。これが事実ならウィルスなどの自然発生したものの類ではないかもしれない。ウィルスが時計かあるいは通信機器でも持っていれば別であろうが。そうすると、これはゾンビというより宇宙人による成り代わりとかが近いのかもしれない。いや、原因を考えてもまだ答えが出るほど情報がない。とりあえず、ヒロの言うとおりハナさんを救うために必要な情報を現実から集めたほうがいい。
「調べる前に家族に連絡を送ったほうがいいだろう。」
「そうだね。とりあえず、自分たちが無事であることと、人がたくさんいるところにはいかないようにしてほしいことを伝えたらいいと思う。」
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