第2話

「どしたん?なんや、外が騒がしいけど」

 リンさんも先ほどの騒ぎで起きだしてきたようだ。彼女は伸びをして、薄暗い部屋に明かりをつけようと、電灯のスイッチに手を伸ばす。


「電気はつけないほうがいいと思うよ」

 ヒロが彼女の手をつかむ。そして窓の外を見るように促すように彼女の手を引いた。

「なに。そんな引っ張らんでも、そと……くらい」

 そういって窓のそばに連れられてきたリンさんの声が詰まる。


「何があったんや、これ?」

 少し声を震わせながら彼女はさっと窓から目をそらした。


「裕斗、何が起きたか分かる?」

「教室に行ったら急に」

 先ほどの光景を思い出しながら答える。


「映画とかのゾンビに、似ている」

「そんな。あれはフィクションやろ。そんなわけない……」

 ヒロのゾンビ発言にリンさんが反論する。でも、その声は現実を鑑みたのか、だんだんと小さくなる。

 現状を見れば、ゾンビに近いものが発生したと説明するのが一番近い。人が人を噛み、噛まれた人がまた人を噛む。まさにゾンビ。


 みんなの表情が暗く曇る。

「そういえばハナさんはっ」

 その沈黙をリンさんが破る。まずい。

「講義に出るって言って、わかれた」

 慌ててメッセージアプリを立ち上げようとした。その手をさっとヒロが押しとどめた。


「どうして」

「もしかしたらあいつらは音に反応するかもしれないだろう。彼女が危機的状況にいたら、追い込む可能性があるじゃないか」

 確かに。でもどうすれば。その時、リンさんの携帯に着信があった。


「もしもし、先輩。今、電話大丈夫ですか?」

「大丈夫や。今、どこにおるん?」

「今、講義棟2の3階奥の女子トイレにいます。助けてください。危ない人たちがいっぱいいるみたいで、出られません」


 小声で話しているようだ。そうしてその声は震えている。

「分かった。絶対助けに向かう。携帯をミュートにして、できるだけ音を立てずに、そこでじっとしとくんやで」

「すみません。頼れる人が皆さんしかいなくて……。じっとしときます。お願いします」

 通話が終了する。

 3階。


 この中を講義棟まで行って3階。

 絶望的な距離にめまいがした。

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