ゾンビによる世界の崩壊が始まったので必死に生きてみる
@onepoint
第1話
「やっと……完成した」
僕は最後の木材に釘を打ち込み、膝をつきながらうめくように声を絞り出す。ガランと力が抜けた右手からトンカチが床に落ちた。
「やりましたね。先輩」
後輩のハナさんが嬉しそうに言う。徹夜明けでやつれて見えるがとてもうれしそうだ。
「あとはこの箱を業者の人が会場まで運んでくれる」
そう、今木材で作ったこの箱の中には人間大の人型ロボットが入っている。1年間、大会に出るために懸命に作ってきたものだ。業者さんが取りに来るのは3時間後だったか……。
「向こうで寝てる二人はどうしましょうか?」
ハナさんの指先に視線を向けると二人死んだように眠っている。この二人を含めた四人がこの部活の全メンバーだ。二人は机に突っ伏しているがその前には十本を超える栄養剤の缶が見える。
「寝かせておこう……。彼らは今、三日分の睡眠をとっているところだ。それより僕は授業に出ようと思うが、君はどうする?」
僕は先ほど栄養剤を飲んだところで目がさえて眠れそうになかった。ふいと視線を二つの寝袋に向けながらいう。そういえば彼女は初めての徹夜であるので寝袋などおいていようはずがないか。
「いえ、私も授業を受けに行きます」
「そうか」
月曜日の一限目、出席が足りてれば行きたくないんだが……。この日のために溶かした時間を恨む。それはそれとして彼女も授業を受けるということだし、講義はもうすぐ始まるので急いで部室から出た。
「私はこっちなので」
途中でハナさんと別れた。僕もふらりふらりと自分の教室を目指す。ふと空を見上げると青い空と日差しで視界が白くかすむ。今は十二月の下旬。とても寒い。
講義棟に入りドアを体全体で引きづるように手前に引く。
たくさんの人が視界に入った。すでに教壇の人が話しているし、急いで中に入らないと。
その時、校舎中に9時を告げるチャイムが鳴り響く。それと同時にザっと教室中の人が立ち上がった。何事かと思った。示し合わせたように突然に教室中のほとんど人が立ち上がったのだから。そうして、立ち上がった人たちは突然座っている人に噛みついた。
僕は扉をそっと閉めた。何あれ。あまりの眠さに幻覚を見たのか?
けれども今見たことは嘘ではないぞと告げるように悲鳴が上がる。
まずい。ここにいたら。寝ぼけた頭でもそれぐらいはわかる。慌てて階段を駆け下りる。後ろの方で悲鳴とともに数人の生徒が飛び出してきた。
講義棟を出ると全力で部室を目指した。
はぁ、はぁ。息をつきながら扉を閉める。
するとその慌てように目を覚ましてしまったのかヒロが机からむくりと顔を起こした。
「どうしたんだ、裕斗?そんなに慌てて」
伸びをしながらヒロが聞いてくる。
「そ、それが人が人にかみついて」
「そんなわけ……」
彼の否定は外からの叫声に立ち消えた。
先ほどまでの寝ぼけた表情はすっかりと消え、彼は機敏な動作で窓を確認する。そしてシャッとカーテンを閉めた。ヒロは次々にカーテンを閉める。
「どうしてカーテンを?」
「窓の外を見ろ」
促されて外を見る。あちらで人が人にかみつかれているのが見える。血であたりが真っ赤に染まりもはやその人が生きているのかも定かではない。ところがだ。その噛まれた人は急にむくりと体を起こすと走り始めた。
「今の……みたか?」
あまりの衝撃的な光景にヒロにおそるおそると聞く。
「やばい。これはやばい」
ヒロはカーテンを閉める手を早める。部屋の中はすっかりと薄暗くなった。
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